アーティスティックビリヤードジャパン2015
国内最高峰のアーティスティックバトルを制したのは界敦康(JPBF)
数あるビリヤードの競技種目の一つである「アーティスティック」の国内トッププレイヤー12名を集め、新たなアプローチでビリヤードの魅力を伝え、楽しんでもらおうと企画された『アーティスティックビリヤードジャパン2015』。JPBF所属の小林英明プロを中心とした主催の『Kobby's Billiards・イベント実行委員会』が、試合形式の決定からスポンサー集め、さらに大会の告知に至るまでの全てを行ったイベントが10月24日(土)に開催された。
この日集った12名のアーティスティックプレイヤー
ビリヤード競技の中でも、敢えて言えばマニアックな部類に入るであろうアーティスティックのイベントは一体どんなものになるのか? そんな思いを抱きながら開催当日、会場となった東京都中野区の『Kobby's Billiards』を訪れたCUE'S編集部は、プレイヤーとギャラリー、そして白熱のゲームと数々のサブイベント、さらにグッズや飲食のブースが一つとなってその場を「祭」に変えていく、心地良いライブ感と一体感に満ちた会場の様子を目の当たりにすることとなった。
熱気に包まれた会場の『Kobby's Billiards』
イベントでは、国内でのアーティスティック競技の基本フォーマットに則った試合を軸に、その合間に取られた長めの休憩時間に、スペシャルゲストによるエキシビションやギャラリー抽選会などが展開された。まず試合は12名の出場選手が6名2組に分かれた予選ラウンドから始まり、各選手が挑んだ計20ショットの合計得点によって、各組上位2名が決勝ラウンドに進み、4名が改めて15ショットを行ってその合計得点で優勝者を決定するフォーマットで戦われた。
アーティスティックの課題には一つとして簡単なものはない
決められたボールの配置に対して決められた方法でショットし、3回の試技の内に、手球を2つの的球に当てることで得点となるアーティスティックは、いずれの課題をとってもショットする手球を自在に操るための高い技術が要求される。
女子プロとして唯一参戦した肥田緒里恵も随所で切れのあるショットを魅せた
強烈な引き球や押し球、そしてマッセショットなどは誰の目にも驚異に映り、成功か失敗かという結果もすぐにわかるため、言ってみれば出場選手のワンショット毎にクライマックスが訪れる。さらにこの日は試合全体を通して、ライブでの実況解説が採用され、各ショットや出場選手をタイムリーに解説したこともあって、ギャラリーの声援、歓声、ため息のボルテージも試合が進むにつれて高まっていく。
福田豊(写真左)と出場選手が交代で務めたライブの実況解説も会場を盛り上げた(写真右は程塚一誉選手)
それに触発されるかのように、出場選手達もアーティスティックのトッププレイヤーとして、自らが持つ技術だけでなく、備わったキャラクターも全開で試合を盛り上げた。鍛え上げられた上腕から放たれる超パワーショットや得意技の背面マッセ、アーティスティックを知り尽くしたいぶし銀のショットなどが続出する中、優勝を果たしたのは、現在はスリークッションに専念しているものの、全日本アーティスティック選手権5度優勝、2011年の世界アーティスティック選手権でも銅メダルに輝いた
界敦康。(JPBF)。メインイベントの試合は、トッププロがその実力を存分に魅せるという誰もが納得のエンディングとなった。
背面マッセで会場を大いに湧かせた井関孝之選手(アマ)
一方、サブイベントには出場選手ながらイベントの盛り上げに一役買った
町田正、
渡辺元、
肥田緒里恵のJPBFプロに加え、イベントスポンサーとなったOWLグローブをプロデュースするJPBAの現ランキング1位・
大井直幸と日本スヌーカー界のトッププレイヤーにして、このほど久しぶりにJPBAプロとしての復帰も果たした福田豊もスペシャルゲストとして登場。
試合の課題配置を成功させるなど、大井直幸もエキシビションで大活躍
大井は現在のポケットビリヤード界ナンバーワンの実力とパフォーマンス力でギャラリーを魅了しながらアーティスティックショットを決めて見せ、丸一日を通して実況で得意のトークを爆発させた福田もまた、観客を乗せて惹きつけるパフォーマンスを見せた。この日観戦に訪れたギャラリーは、ビリヤードを知る知らないに関わらず、アーティスティック最高峰の戦いとその他のイベントを、レアなキューから最新のグッズまでが並ぶブースやメキシコ料理が楽しめる出張屋台などと共に存分に堪能した様子であった(イベントフォトギャラリーは
コチラから)。
アダムジャパン、ERスポーツ、OWL、ナビゲーターなどが出展したブースも大盛況
ビリヤードそのものの楽しさや、競技スポーツとしての面白さをもっと多くの人々に知ってもらい、プレイヤーやファンを増やしていくことは、日本のビリヤード界にとって大きな課題の一つ。今月に限っても、国内では『北陸オープン』や『九州レディースオープン』のように、特設会場を舞台にしたトッププロによるハイレベルなトーナメントが行われ、トリックショットの世界的プレイヤーであるフロリアン・コーラーのスペシャルイベントが全国各地で開催されるなど、ビリヤードを盛り上げていく努力が続けられている。
大会ベスト4。左から4位・原田直樹(アマ)、準優勝・藤田直之(アマ)、優勝・界敦康(JPBF)、3位・小林英明(JPBF)
今回のイベントで行われた競技は、現在の日本の主流であるポケットビリヤードではなかった。しかし、誰の目にもわかりやすく、単純に「凄い!」と感じさせることのできるアーティスティックのインパクトは予想以上に大きかった。ビリヤードの普及と発展という流れの中で見ても、今回の『アーティスティックビリヤードジャパン2015』は、ビリヤードの持つ魅力を伝え、「観戦スポーツ」として新たなビリヤードファンを作り出していくアイテムの一つとして、大いに可能性を感じさせるイベントであったと言えるだろう。
『アーティスティックビリヤードジャパン2015』は主催者とそれに協力を惜しまなかった仲間達による手作りのイベントでもあり、やり残したことや課題も残り、決して全てが成功した訳ではなかっただろう。だが、大会終了後の選手達、観戦に訪れたスポンサーやギャラリーの笑顔は、ビリヤードそのものが持つ魅力が、一日を通して確実に会場で発信され続けていたことを物語っていた。