Players Pic Up 稲川雄一
『西日本グランプリ第4戦』優勝者・稲川雄一。32歳。地元での愛称は「ジュニア」。これは彼が13年前に『第2回全日本ジュニアナインボール選手権』を制したからではなく、父親がビリヤード愛好家であったことから、「稲川の子供(ジュニア)」に由来する。試合会場ではいつも穏やかな表情で、東海の仲間らと笑顔で話していることが多い。ホームは名保美夫人(JPBA)と一緒に切り盛りする『ANY』(岐阜県大垣市)だ。
そんな彼がプロ初優勝を飾った西GP第4戦の様子は先の記事でお伝えした通り。「田中(雅明)プロに初めて勝ちましたし、大井(直幸)プロにも初めてでした。そして初めての決勝戦を気負わないように、自分らしく楽しくやりたいと思い、それがたまたま上手くいった」(以下、稲川)結果がタイトル奪取。そんな稲川のこの日の快進撃は、観る側に様々なことを思い出させてくれた。
「僕は人(相手)に飲まれるタイプで、よくチンプンカンプンなことをして、自分でため息が出るような試合ばかりしてきました」。これは初優勝から数日後に取材をした際に稲川が発した最初の言葉だ。そんな様子はおくびも見せず、トッププロを相手に淡々と球を入れていた。ただし「セーフティ戦などになると勝てる気がしなかった」田中戦では、序盤に4連続マスワリを出して5-1とスタートダッシュを決め、「序盤は飲まれた」大井戦は3-3に追い付く場面でミスをするも、2-5のビハインドから圧巻のパーフェクトプレーで5連取に成功し逆転勝利を収めた。
こうした場面を振り返る稲川は、素直な言葉をテンポよく紡いだ。飾らず気取らず等身大の自分を見つめる。これは競技界における『勝ち組』の共通点でもある。そして日頃の練習に話が及ぶと「試合中の精神状態について、普段の練習から最近は意識して取り組んでいた」ことに触れ、断定は避けたが、初優勝につながる素地を養っていたことを窺わせた。
そして佐藤正行とのファイナルでも、稲川は見事に「自分のビリヤード」を貫いた。そう意識して貫いたことを「たまたま上手くいった」と振り返る。その言葉のトーンからは、謙虚さよりは正直さを感じた。おそらく、彼はこの先も勝つために必要なパーツを1つずつ増やしてゆくのだろう。であれば、階段を上り続けることは間違いない。
そして稲川の初優勝劇で思い出させてくれたことを3つほどここに記したい。ひとつは笑顔。チャンピオンの満面の笑顔は、その大会の格を引き上げるほどの効果を持つ。たった1つしかない優勝者の椅子を本気で奪い合うのがトーナメント。準決勝で敗れた大井が笑顔で相手の稲川を讃えたこともまた王者の貫録を示したといえる。
左から吉岡、稲川、佐藤、大井
そして2つ目は、自分のプレーができれば多くの選手に勝機はあるのだということ。西GPでは久しく見ていない光景でもあった。最後の3つ目は大井より後輩の世代が育っているということで、稲川、佐藤はもちろん、3位の吉岡正登もしかりだ。そして、佐藤と同学年で誕生日は約1年遅い土方隼斗(佐藤は'88年4月16日生まれ、土方は89年3月16日生まれ)のスゴさも改めて気付かされるところ。
「早川工房、ナビゲータータップ、ヴォルツーリ(リネアカンパニー)というスポンサーさんには、結果が出ない自分を温かく見守っていただいてきて、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。だから今回、ようやく1つ形にするとができてホッとしているのが正直なところです。そして支えてくれる家族、仲間にあらためてありがとうと伝えたいです」と、稲川はインタビューを締めた。
岐阜の稲川。自然体になるほど強い男。決勝戦の模様はCBNTで後日リリースの予定だが、稲川はゲームボールを沈めた直後に、当日中継配信されたUSTREAMのビデオカメラに向かって笑顔でガッツポーズをしていた。聞けば「映像で東海のみんなが応援してくれていると思ったので、10番にポジションが出たところで思いついた」とのこと。
控えめだった大器が、咲き始めた。
Akira TAKATA
2015 西日本グランプリ第4戦in京都 フォトギャラリー