International Cue Collector Show 2015 in Denver, Colorado
ICCSリポート第2弾!
8月28日・29日にコロラド州デンバー郊外にある『ウェスチン・ウェストミンスター・ホテル』で開催された、カスタムキュー展示会、インターナショナル・キュー・コレクターズ・ショー(ICCS)。今回は会場内で注目の展示をリポート。
Part1はこちら
【コレクションの進化と分化】
2002年に始まったICCSは、コレクションの充実を本来の目的としているが、コレクションを公開し、他コレクターとの比較で評価されることで、コレクター自身のキューに対する考え方や意識の変化も合わせてもたらしている。毎回参加して感じるのは、展示キューのラインナップが増えるだけでなく、各コレクターの個性や好みが回を追うごとに明確になっているということだ。
現役キューメーカーの作品を広くコレクションする、ボブ・ホップマン
その最たる例が、欠かさずICCSに参加することで自らの審美眼を磨き、コレクションを充実させているコレクター、ボブ・ホップマン。彼のコレクションは90年代中期以降に製作された比較的新しいキューが中心で、一つのメーカーの作品を一本ずつ展示するスタイルだ。それはまるでキューメーカーの百科事典のようで、メーカー名を表示し、デザインや構造の違いを比較できる工夫も、キューに対する知識の深さをさりげなく主張していると言える。
独立戦争からイラク戦争まで、アメリカが経験した戦争をデザインモチーフにした、キース・ウォルトンの「ミリタリー・コレクション」
また、キューディーラーとして日本でも知られるキース・ウォルトンは、アメリカが経験してきた戦争をデザインモチーフとして、多くのカスタムキューメーカーに製作を依頼した「ミリタリー・コレクション」を毎回1~2本ずつ追加しながら展示している。ベトナム戦争に従軍した自らの体験を背景に、祖国のために戦った軍人に捧げるキューコレクションを提示するという発想は、ビリヤードをプレーする道具としてのキューを超越した、他に見られないコンセプトだ。
ヴィンテージキュー中心の「リック・ゴールデンコレクション」
一方、当初から「ブレない」姿勢を貫くのが、ヴィンテージキューを中心に収集するリック・ゴールデン。40年以上のコレクション歴を持つ彼のコレクションは、大半が30年~50年前のヴィンテージキュー。現代の凝った作品を展示する他のブースと比較すると地味だが、通常決して目にすることが出来ない、歴史的に価値のあるキューの展示は、多くの来場者がブースの前に釘付けになるほど毎回注目を集めている。
【コレクションを電子出版】
ICCSの展示という点では異色だったのが、ジェームス・シェリダンの『Collector's iBook』。自らのコレクションを電子出版としてまとめ、記録として残すと同時にiBookにて販売するという新しいサービス。「ビリヤードエンサイクロペディア」の著者、ヴィクター・ステインと協力し、キューコレクションの新たな公開手法としてセールスしていた。ちなみに顧客第一号は、日本のキューコレクターでありキューメーカー、菱沼巌氏とのことだ。
『Collector's iBook』をセールスするジェームス・シェリダン(右)と、ヴィクター・ステイン(左)
シェリダン・ディジタル・パブリッシングのWebサイトはこちら
jrs35711.wix.com/sheridandigital
【新旧メーカーの競演】
コレクター主催のイベントながら、毎回注目されるキューメーカーの新作展示。今回はベテランメーカーと新進気鋭メーカーの対比が注目を集めた。1974年からキュー作りを手掛けるリチャード・ブラックは、そのどれも、現在様々な芸術家とのコラボレーションや、美術品から着想を得たデザインで超高級モデルを年間数本製作するのみ。今回は磁器の壺をモチーフに、ボブ・マンジーノとトーマス・ウェインと競作したキューも展示していた。
リチャード・ブラック
一方、「コレクターズ・チョイス賞」を受賞したジョシュ・トレードウェイは、プレイヤー向けキューからコレクター向け高級モデルまで手掛ける、製作歴6年の若手メーカー。ベテランキューメーカー、ジム・バスから学び、工房や工作機械、銘木のストックを受け継いで製作するそのクオリティは高いレベルを誇っている。新旧メーカーが同じ会場で展示し、デザインや価格等を比較されることで、カスタムキューの進化を促進している。
ジョシュ・トレードウェイ
【カスタムキューに新素材】
少量生産メーカーが得意とする、珍しい素材や凝ったデザインのキューを手に取ることができるのが、ICCSの楽しみ。今回は、初参加メーカーのマイク・ダービンが、最高級モデルのバットに、人工樹脂「ホワイトスネイク・ジュマ」を用いて注目を集めた。まるで白蛇のような模様が浮き出るこの素材は、銘木ほど高価で希少なものではないが見た目のインパクトは抜群。
マイク・ダービンのキューは、バットに人工樹脂の「ホワイトスネイク・ジュマ」を使用
撞いた感触もメイプルコア構造により問題なしということで、今後のキュー製作素材の在り方、キューに使用される素材の価値に一石を投じた。
ジョイントカラーに人造石や、金・銀の線を埋め込んだAE
地元デンバーのキューメーカー、『AE』は数年前から金・銀・銅といった金属をインレイ素材に多用している。今回のICCSでは、何とジョイントカラーに人造石を用いたり、金線・銀線をインレイしたりと、他メーカーとは一味違うテイストのモデルを展示。トラディショナルな4剣デザインでも、これまでにない雰囲気を持った高級モデルに仕上げているのは、ICCS常連であるAEならでは。今後どのような素材やデザインが出てくるのか楽しみな展示といえる。
K.Kagomiya