JAPAタイトル同時3冠達成!!
名人戦2度目の挑戦にして頂上まで登り詰めた小川徳郎
先ごろイギリスのロンドンで開催されていた『ワールドカップ・オブ・プール』で、本命格と目された台湾チームが優勝した。これに対して、同じイギリスで開かれているラグピーのワールドカップで日本が南アフリカに勝ったことについて、『ジャイアント・キリング』(番狂わせ的な意で使用されるサッカー由来の言葉)という表現があちらこちらで使われた。下剋上が起こりにくいラグビーに比べると、ビリヤードは展開や運勢の影響を受け易い競技だ。そこで真の力を競うために、プレイヤーはロングフォーマットを好む傾向にある。
会場となった『ビリヤードクラブ 5&9』
現在の国内でもっとも長いフォーマットの1つに数えられる試合に『名人位決定戦』がある。ローテーションの300点先取の5セット先取りで行われるので、最短でも15ラック200球以上、最長の場合は45ラック675個のボールを2人の選手で沈めることに。ナインボールで行われる『球聖戦(球聖位決定戦)』と同様に結果に異論を挟む余地がない試合。しかし今年の決定戦は、最強vs最強という究極のカードが実現して、下馬評も「予想困難」が多数派となった。
小川を迎え撃った54期名人の喜島安広
喜島安広第54期名人。沖縄でビリヤードを始め、後に埼玉へ移り、現在はSPA(埼玉ポケットビリヤード連盟)のエースとして定着。現存するアマチュアポケット界の全国タイトル6大会全てを制覇して前人未踏の記録を打ち立てた男。対するのは小川徳郎。KPBA(神奈川ポケットビリヤード連盟)に所属し、この名人戦で4冠達成を狙う。そしてJAPA(日本アマチュアポケットビリヤード連盟)が主催する大会では、全日本アマローテ、都道府県対抗MVPを今現在保有しており、この名人戦で勝てばJAPA5冠中同時3冠を達成するという、こちらも驚異的な記録に挑む状況。
小川徳郎は今年、同じローテーションが種目の都道府県対抗でMVPを獲得
9月27日(日)の午前10時。喜島名人のホームである『ビリヤードクラブ 5&9』(埼玉県所沢市)で史上に残るであろう一戦がスタートした。名人戦の名物でもある応援幕も用意され、喜島陣営は『勝負の差は、想いの差 〜仲間のために勝つのが俺の道〜』のフレーズを掲げ、対する挑戦者の小川サイドは『来年、神奈川でお待ちしてます』、さらに『そうだ。名人になろう』と謳った。そしてスタートの時点で埼玉、神奈川両クラブ員を中心に約60名の人が集まり、両選手に寄せる期待の高さを窺わせた。
それぞれに想いが詰まった双方の応援幕
第1セットを喜島が取ると、以降は小川、小川、喜島、小川、喜島とセットを奪って、セットカウント3-3で終盤へ。両選手揃ってスピーディーかつミスの少ないゲームは、かなりのハイペースで進み、夕方を前にして2セット先取という状況に。300点ゲームも2セット先取であれば、もうロングゲームではない。そして引き分けのないゲームは結末へと向かった。
リアルタイムで展開を映し出すモニターによってさらにゲームが盛り上がった
またプレーリズムの良さに加えて、ショットクロックを可視化したモニターも観戦者を一段と楽しませることに。これはオンプレーに入ると大型のモニターに40秒からカウントダウンが始まり、ブザーで選手に残り時間を知らせる機能も備える。また計5回のエクステンション使用状況も一目で分かり、さらに隣に設置したモニターではタイムリーにスコアを表示。こうした観る側への配慮は、世界的に見ても先進の域にあり、どこまで進化が続くのか楽しみなところだ。
新名人・小川、神奈川応援団とともに名人位を奪取
そして第7セットは小川が取って、セットカウント4-3で名人位奪取に王手をかけた。つまり続くセットを喜島が取れば文字通りフルセット、小川が取ればゲームセットという状況。このセットは、長年にわたって小川を見守ってきた長矢賢治プロも「運が小川選手に味方した」と振り返ったように、小川がしっかりと自分に向いた流れを掴んで、第55期名人位の座に就いた。そして我がことのように満面の笑みで喜びを共有する神奈川の仲間たち。小川と喜島の勝負は今後も続くであろうし、タイトルを続々と集める彼らがアマチュア界を牽引する時代もまた長く続く。そんな予感をさせた。
惜しくも敗れた喜島だが、名人戦史上に残る名勝負を演じた
なお今回の会場において、大会主催のJAPAから、名人戦を長年に渡ってサポートした株式会社アダムジャパンと株式会社オーティーエーエンタープライズに対して、感謝状と記念品の贈呈が行われた。
第3セット終了後に感謝状と記念品の贈呈が行われた(写真は株式会社アダムジャパンの関根沙織社長)
Akira TAKATA