狭山の「寺子屋」にビリヤード台を設置。地域の繋がりを深める「横糸」に。
明るく開放的な寺子屋に、アダムジャパンより提供された新品の9フィートテーブルが設置された
団地の空きテナントを改装したそのスペースはまさに現代の「寺子屋」。壁には夢を書いた半紙が掲示され、そこかしこに教材や文房具が並ぶ。その一つ一つに近所の小学生たちの息吹が感じられる。――『夢はうす』と名付けられたこの場所に、誕生から2ヶ月を迎えた6月初旬、文字通り大きな贈り物が届けられた。ビリヤードテーブルと用品一式である。
埼玉県狭山市の西武狭山台ハイツN棟1Fにある『夢はうす』は、NPO法人「まちのつながり推進室」が運営。代表の矢馳一郎氏は狭山市出身で、地元の仲間達や関係機関と共同で「地域の繋がりを深めることと空きテナントの有効活用」を命題に、廃業した美容室だったこのスペースを蘇らせた。現在は夕方から寺子屋としてオープンし、子どもたちが日々の学習のほか、外国語・書道・料理などに精を出しているが、近日中には、日中の時間は近隣住民が気軽に集まれるコミュニティカフェの顔も持たせていく方針だ。
現代の寺子屋、『夢はうす』は西武狭山台ハイツN棟1Fにある
狭山市と言えば、そう、世界に誇る伝統のキューメーカー『アダムジャパン』がある。『夢はうす』立ち上げに際して、アダムジャパンは一も二もなく協力を約束。オープンから約2ヶ月を経て、晴れて自社保有の新品テーブルを提供することとなった。設置工事は国内大手の『ニューアート』が、こちらも全面協力を申し出た。組み上げられたピカピカのテーブルに目を輝かせて駆け寄っていく小学生たち。大きな新参者は初日から大歓迎を受けていた。
テーブルは6月初旬に『ニューアート』の協力によって設置された
「スポーツとしても知育教材としてもビリヤードはとても魅力的で、子どもたちに夢を与えられるコンテンツだと思っています」。キューを片手にはしゃぐ子どもたちに矢馳氏は目を細める。
初めてビリヤードをする子どもたち。小学生の彼らに教えるのは「さやまビリヤード愛好会」のメンバー
子どもにものだけを提供して終わりなのか?――そんな心配は無用である。地元・狭山の『さやまビリヤード愛好会』から日替わりでボランディア指導員がやってきて、マナーやルール、遊び方を教える。『さやまビリヤード愛好会』は、これも地元の学びの場、『知の市場・狭山を学ぶ』(連携機関:アダムジャパン)の全15回のコースを修了した人々で組織されており、『夢はうす』からもほど近い『狭山元気プラザ』を活動拠点としている。平均年齢60半ばの彼らが、孫世代と言っていい小学生にビリヤードを教える。俯瞰して見れば、狭山市内に「ビリヤード伝承のエコシステム」とでも言うべき仕組みができあがったことになる。
夢はうすにいた子ども・大人全員で記念写真。ビリヤードが地域の繋がりを強くする
地縁を軸に異世代交流を謳う地域や機関は多いが、ビリヤードを「横糸」として地域や人々を結び付けて行くという例は極めて珍しい。もちろん『夢はうす』は小学生向けの寺子屋なので学業が本分となるのだが、常設の9フィート競技台という「本物」に初めから触れていく彼らが今後どうなっていくのか。社会学的にも、もちろんビリヤード界的にも興味は尽きない。
Billiards Days