第24期球聖位・大坪和史
先の『第24期球聖戦・球聖位決定戦』で防衛を果たして第24期球聖位に就いた大坪和史。彼を形容する言葉のひとつに『中国地方の神様』という表現がある。記者も今回の球聖戦取材を通じて、その意味を肌で感じて少し知ることとなった。今日は、プロとかアマといった肩書きやスキルレベルで括ることができない、そんな不思議な広島の名選手のお話しを。
昨年から2年連続で東日本代表となった中野雅之と西日本代表の木村隼人。2人がそれぞれ"生粋のサラリーマン"なので『生粋のアマチュア』と表しやすいのに対して、大坪は家業がビリヤード用具商とビリヤード場の経営で、本人もそこに携わっていることから、何となくセミプロ的なイメージを持たれがちだ。だが、キューを握る時間は間違いなく前出の2人よりはるかに短い。これは紛れもない事実。
だが、大坪の華やかすぎる戦績がイメージを独り歩きさせる。名人位1期、球聖位2度3期、マスターズは優勝2回準優勝3回、アマナイン優勝1回準優勝1回。西日本プロツアーや全日本ローテーション(オープン戦)でも優勝経験がある。だが本人はタイトル獲得至上主義でもなければ、ターゲットを定めてライバル意識を燃やすタイプでもない。キューを握ればただ自分のベストを尽くすだけ。球へのコダワリは多いが、それは自身の内側へ向けてのもの。
彼のプレースタイルを分類するならば『コントロール型』。桁違いのシュート力も備えているが、(一般的に)難球とされる球を狙う際にも、撞点や力加減を妥協せずアジャストしてショットするので、観る者の意識がそちらへ吸い寄せられて『入れ力』はスルーされる傾向にある。また空クッションやバンクショットの精度も驚異的で、想定し得る結果を瞬時に計算して力加減と撞点を決めている印象。アンドセーフの決まり方も尋常でない。
ここまでなら『とびきり強いアマチュア』で片づけられるのだが、大坪はある種の"神"として崇敬され、応援団は教祖様に対して"神がかり(的な球)"さえ求めているのではないかと感じる。この日一日を通して決して"らしく"はなかった大坪がセットカウント4-3で王手をかけた第8セットに、神様の神様たる事情を見た気がする。2-0とリードを奪った第3ゲーム。ブレイク番の中野が残した2番は隠れていた。それをジャンプショットで入れて、およそ想定内のポジションを決めた大坪は大きな拍手を浴びる。
だが、次の4番も簡単ではない。応援団は次も「入れて出す」と信じて疑わないのだろう。並の選手であれば押し潰れそうな声援と拍手。期待に応える大坪。一段と盛り上がる観客席。この繰り返しは、ライブの終盤で(ファンが盛り上がる)鉄板曲を続けて披露するアーティストにも重なる。いや、この姿は信者を前に説いては感涙を誘う教祖そのもの。この瞬間、この感動を共有できるから、大坪を応援しているのだろう。
(後編に続く)
Akira TAKATA