第24期球聖戦・球聖位決定戦
白熱の好ゲームの末に見事初防衛を果たした大坪和史
「上手い人は強いし、強い人は上手いんです」という言葉が頭の中に浮かび上がり、
両選手が9番ボールを沈めるたびに、何度もリピートしていた。大坪和史第23期球聖と挑戦者・中野雅之のロングマッチ『第24期球聖位決定戦』は、セットカウント3-3まで両者まったく譲らない互角のゲームを披露した。
会場の『ビリヤードみゆき』には終始緊迫した空気が流れていた
会場は大坪のホームである『ビリヤードみゆき』。終了後に「コンディションに合わせられなかった」と本人が振り返ったように、遠征先でもアジャストする能力を備えた大坪にしては、ホームのテーブルに右手が合ってこない様子だった。随所でバンクショット、キックショット、そしてコンビネーションと"神業"で拍手を誘ったが、自身の中で「イケる」という感触を得るにはほど遠かった様子。
一日を通して全力を尽くし続け"一球入魂"を貫いた中野雅之
対する中野は、大粒の汗を額に光らせながら、全てのショットに文字通り"一球入魂"を貫いていた。彼の一瞬たりとも集中を切らすことなく真正面からテーブルに向き合う姿は、アマチュア界のナンバーワン決戦にふさわしいもの。その気迫と集中力は桁外れの『強さ』を感じさせ、大坪の計算され尽くした感のある精度の高いショットは『上手さ』というワードを連想させる。
大坪は一日を通して「上手さ」が光るハイレベルなプレーを続けた
そしてゲームが動いたのは第8セット。1-1、2-2、3-3と3たびのイーブンスコアを経て、第7セットを取って防衛に王手をかけた大坪が、50名を超える中国地方大応援団の期待に応えるべく「これぞ大坪」なスーパーショットとコントロール力の高さを続々と披露。中野も空クッションから叩き込むなどして応戦したが、ゲームの主導権を奪うには至らず、セットカウント5-3で大坪が防衛を果たした。
「相手が上手で、自分のコンディションへの対応力のなさが勝負を決めたと思います」とは試合直後の中野の談話。そして「でも、気持ちだけはずっと強く持ち続けられた」と精神的な部分では及第点に及んだ様子のコメントも残した。遠方から駆け付けた家族と仲間が見守る中、全力プレーを貫いた中野の大きな体が、ひとまわりたくましい印象を与えていた。
中野の「強い気持ち」を支えた応援団とともに
そして大坪は過去に名人戦、球聖戦で防衛を果たせなかったこともあり、今回は『防衛』に対して大きな意識を持っていたと感じさせた。中国地方ではアマチュア選手ながらカリスマ的存在である大坪。その類を見ない華やかな戦績もさることながら、「あんなに長い時間を熱心に応援してくれる人がいるのだから、何とか結果で応えたい」という状況下で、一球ごとに拍手と声援が大きくなる中で披露したパーフェクトプレーはさすがの一言。カリスマのカリスマたる所以を見た思いだった。そんな大坪の素顔については、また機会をあらためて紹介させていただきたい。
大坪は一日を通して声援を送り続けた仲間に最高の形で応えた
こうして地元を歓喜の渦に包む初防衛で幕を下ろした12時間の激闘。いや、中野にとっては昨年の挑戦者決定戦で大坪に敗れて以来、1年に及ぶ闘いであったであろうし、大坪にすれば防衛を果たせず球聖位から降りた2009年以降6年がかりで掴んだ物語も含んでいる。来年は球聖戦も四半世紀という節目を迎える。その主役は誰になるのか。銀色の杯(カップ)は大坪球聖位のそばで静かにその時を待っている。
■第24期球聖戦・球聖位決定戦結果
9ボール交代ブレイク 5セット先取(1セット=7ゲーム先取)
第1セット:大坪 2-W 中野(0-1)
第2セット:大坪 W-2 中野(1-1)
第3セット:大坪 W-4 中野(2-1)
第4セット:大坪 6-W 中野(2-2)
第5セット:大坪 W-3 中野(3-2)
第6セット:大坪 3-W 中野(3-3)
第7セット:大坪 W-5 中野(4-3)
第8セット:大坪 W-0 中野(5-3)
Akira TAKATA