Player Pick up 羅立文
12日(日)に行われた『東日本グランプリ第2戦』(会場はハイランドビリヤード)では、既報の通り台湾出身の羅立文が地元・横浜で自身9度目(グランプリ通算)の優勝を決めて見せた。この日の羅は、見る人によっては神経質になっていたように感じられたであろう言動が散見する。何度組んだラックを崩して立て直したことだろう。ラックシートも1日を通して2〜3度交換し、ゲーム中には審判にボールを拭くように、またテーブル上の小さなほこりを取り除くように頼んだ。
決して傲慢な振る舞いからではなく、プロとして、勝ち負けの中に生きる者として主張すべき主張を行ったに過ぎない。本人曰く、「海外で戦う場合などは当たり前」のことだとも。
何も間違ったことはしていない。それを機に相手に『ここからコイツのブレイクが変わるかも』などと意識させられれば儲けものというだけ。本人に心理的な"ジャブ"の意味合いは、あったのかもしれないけれども。
これは憶測に過ぎないが、決勝日を戦う選手達の面子やレベルを考えれば2度撞きの危険性は低いと思える配置にも、時折審判にジャッジを要求し『監視されている』というプレッシャーのかかる場面を作ろうとしていたように見えた。試合の性質的にもプレッシャーをかけることが重要だと判断していたのかもしれない。
試合のフォーマットは3ゲーム先取・2セット先取(1セット=3ゲーム)、交互ブレイク(各セットの最初のブレイクも交互)というもの。この場合、勝敗を分つのは得セット数であり、得ゲーム数は数字上意味をなさず、2-3で負けても、1-3、0-3と同じ『失セット1』だ。セットは奪いやすくもあり、奪われやすくもある緊張感を秘めていた。
羅曰く、結果的にセットを失ったとしても、取れるゲームをしっかり取っておくことが、その先で相手に掛かる「プレッシャー」に大きな違いを生むという。『せっかく2ゲームとったのに......』と精神的に"下がる"ことは禁物で、そこは気持ちを強く持ち続けて「ミスしたらすぐに逆転するぞ」というメッセージを発し続けなければならないと。
つまり失ったセットの中で見せた粘り強さ、持てるスキルを相手の頭にインプットさせること、対戦相手に気持ちよく継続してプレーさせないことがプレッシャーに繋がる訳だ。ともすればトータル6ゲームで終わってしまいかねない試合だからこそ、勝負は些細な駆け引きさえも有効に使いたい。そう仮定すれば、先の憶測の根拠ともなりそうなものだが、答えはプロ自身のみぞ知るところ。
『精密機械』と形容されることもあるが、この日はブレイクもさほど当たらず、羅らしくないミスやショットクロックをオーバーしてファウルを取られる場面も見られた。常日頃の"SEIKO"さは影を潜めていたかもしれない。だがこの日、"ROLEX"(羅プロのニックネーム)は心理戦込みの『魂』で他者を勝っていたから優勝できたのだと思う。