Player Pick Up 嶋野聖大
嶋野聖大、それは嬉しいプロキャリア初優勝だった
嶋野聖大25歳。土方隼斗の1学年下で、ルーキー・正崎洋行が加入する前は、JPBAで最年少プロだった。そんな若手が『第26回関西オープン』でプロ公式戦初優勝を遂げたのは既報の通り。今回は「新しいチャンピオンが新時代を作ると予感させる話」についてお届けする。
表彰式後の取材。嶋野は落ち着いた様子だった。あまり抑揚はなく、初優勝の喜びを爆発、といった気配もない。逆に面倒臭そうにする訳でもなければ、照れ隠しの態度というものでもなかった。「自己採点は?」の問いには「結果だけなら100点ですけど、トータルすると70点とかでしょうか」と返し、「(フルゲームで迎えた)最終ラックの緊張感は?」と聞けば「いつものヒルヒルの感覚でした」と答える。
ファイナルの相手は田中雅明だった(写真提供/Billiards Days)
また「今はまだ実感がわいていなくて、後から喜びがくるんでしょうね」と、まるで後輩の初優勝を見届けた先輩プロのようなコメントをしたのも本人だった。この雰囲気、そういえば試合中の嶋野と同じだ。ナチュラルに自分のペースを守り、展開に一喜一憂することなく、やるべきことを着実に消化していくような。奇しくも、決勝戦の相手であった田中雅明と似通ったタイプなのかもしれない。
初優勝を遂げ「次の目標は」と尋ねれば、「これまでも一勝を上げたいとは思っていたけれど、それ以上に『常にトップグループの中にいて、その中でランキング争いをしたいと思っていました」という回答。歴代『トッププロ』と呼ばれた面々は、常に優勝の二文字を欲しながら、それ以上に実力はアベレージに反映するという認識を持っていた。嶋野はタイトルを獲る前から本質に気づき、そこを目指していたということになる。
決勝はヒルヒルで決着(写真提供/Billiards Days)
言葉では何とでも言えそうだが、初優勝、それもビッグタイトルを獲得した直後に、そうそう平静でいられるものではない。そして嶋野はこう続けた。「去年が13位。プロ入りから順位をあげて来られているので、更に上げて5位とか6位とかの中にずっと入っていたいですね」と。現実を直視して、明確なイメージを描いて、日々研究や訓練に取り組む。誰もができそうでいながら、一部の者しか成し得てこなかったことを、嶋野は着実に重ねてきたのだろう。現に過去5年のランキングは43、39、26、20、13位とキレイな『右肩上がり』を描いてきた。
「緊張感の中で球を撞く楽しみというか、熱く球を撞く醍醐味というか。そういう状態になれることが年々増えてきた」
実感。これが嶋野が5年間のプロ生活で得た最大の経験値だったのではないか。振り返れば、今大会を通じて見せた安定感も、経験値に裏付けされたものだったのだろう。すると開幕戦で優勝スタートを切った嶋野が、今年をハイアベレージで駆け抜ける予感をさせるのも無理はないし、同世代の土方と新たな龍虎として君臨したとしても不思議ではない。土方にとっても同年代ライバルの存在は好ましいものだろう。
平成の時代は平成生まれが切り開く
ただし、昨年の秋以降、一度も公式戦で日本人に敗れていない大井直幸は中国遠征で今大会不出場だった。またその大井と同級にあたる栗林達と杉原匡、そして前出の田中と今大会3位タイの2名(竹中寛、羅立文)という6名が今年の『テンボール世界選手権』にステージ2シードで参戦することが決まっている。もちろん世界のステージで得て帰ってくるものは極めて大きい。
そう、30代、40代のトップスターが多くひしめき合う現在の国内。だからこそ、その世代を連破してもぎ取った優勝は値千金。
「家族や仲間やたくさんの方、お店(『セスパ』)にずっとお世話になってきたので感謝の気持ちを伝えたいですね」
スポンサーから家族まで全てにありがとうの言葉で締めくくったインタビュー。天才少年として嘱望され、横道に逸れることなくまっすぐ自身が選んだ道を歩んできた嶋野。昨年「若いチャンピオン誕生!」と言われた全日本選手権者レイモンド・ファロン(フィリピン)より学年で2つ下。平成生まれの世代が新時代を築くその時が訪れたと感じた。
Akira TAKATA