2014年プレーバック・JPBF
46年の歴史を誇る「日本初の高層ビル」、霞が関ビルディング。その中にあるホールで、ビルよりさらに10歳年長の新井達雄は、ワンモアを当てた瞬間、眼を閉じてスッと軽くキューを掲げた。プレースタイル同様、力みのない静かで小さな動作だった。
思えば、5月のこの『全日本3C選手権』のフィナーレは、JPBF(日本プロビリヤード連盟)の2014年プロスリークッション戦線を象徴していた。すなわち、新井、復活である。新井の2014年の勝ち鞍は、自身10年ぶり4度目となったこの全日本タイトルのみだが、年間を通じて高いアベレージをキープし、3Cポイントランキングでも10年ぶりの年間MVPを獲得した。
新井は最終戦『アダム杯全日本プロ選手権』で年間MVPを決めた
そこに話題が及んだ時、新井は「全日本タイトルも年間MVPも、どちらも簡単に獲れないもの。特にこの歳(56歳)になるとね。だから両方とも嬉しいんだけど、MVPは1年間を通じての成績で決まる訳だから、こちらの方がより嬉しいね」と、やはり力むことなく静かに微笑んだのだった。
2014年開幕戦を制したのは梅田竜二
振り返ると、日本のエース、
梅田竜二の『東京オープン』(2月)優勝で幕を開けた2014シーズンは、結果として上位陣が星を分け合う1年となった。昨年の全日本ウィナーで年間MVPでもある
船木耕司は、8月の『プロ3CアカデミーZ戦』で3連覇を達成したが、今年はこの1勝に留まった(※毎年のように優勝している『東北選手権』は除く)。6月の『全関東』では
小林英明が優勝し、12月の『アダム杯全日本プロ選手権』では
田名部徳之が嬉しい初優勝を遂げ......と、一人1勝状態でばらけている。皮肉なことに2勝を挙げたのは『ヤマニカップ』(3月)と『ジャパンカップ』(10月)で来日したスペインのD・サンチェスだった。
スペインの至宝サンチェスは今年も日本でその強さを見せ付けた
こうなると、全日本選手権で優勝し、全関東で2位、ジャパンカップでは日本人最高位となる3位入賞を果たした新井の獲得ポイントはMVP争いにおいて大きな力を持つ。本人もそのことは重々承知だったのだろう、今年の新井は会場にいても、コンセントレーションの度合いがここ数年と明らかに違っており、それは大会を追う毎に高まり続けていた。その姿は、約10年前、全日本選手権で連覇(2003年&2004年)を遂げていた頃に重なって見えた。「自分でもあの頃を思い出しました」(新井)。当時、日本のトップを張っていた新井は国内に海外にと遠征を繰り返す日々だった。今年1年、「こんなチャンス、この先もうないだろうからね」と繰り返し呟いていた新井は、もちろん来年、2015年も行ける遠征には全て行くのだろう。
念願の公式戦初優勝を遂げた田名部徳之
新井の活躍が印象的だった2014年だが、今年は「日本キャロム新時代、幕開けの年」としても記憶されていくことだろう。待望の
森雄介のプロデビューである。20歳の新人プロ、森は、早速2つのバンドゲーム(ワンクッション)の大会(全関東&全日本)で優勝を果たし、『世界ジュニア』や『世界ワンクッション』にも遠征するなどその精力的な活動に注目を集めたが、国内の3Cプロ公式戦では3位が最高。「デビューイヤーV」は叶わなかった。「バンドゲームに関してはある程度の満足感がありますが、3Cは完全に不完全燃焼。自分のハイライトシーンも思い浮かびません」と屈託なく語る森だが、「来年は爆発するかもしれません」とも予告してくれたので、その暴れっぷりに大いに期待したいところだ。
今年プロデビューを果たした森雄介はポテンシャルの高さを遺憾なく発揮
最後になるが、国内女子3C戦線についても触れておきたい。2014年は『全日本女子3C選手権』や『アカデミーZレディースオープン』などを制した
西本優子の年だった。今年の大一番、『世界女子3C』(トルコ開催。10月)では、惜しくもT・クロンペンハウワーの後塵を拝して2大会連続の準優勝となったが、「日本代表」として堂々たるプレーを展開していた。2015年は、
界文子と
宮下綾香という2人のプロが出産と育児のため戦線を離れるが、西本、
肥田緒里恵、
東内那津未、
林奈美子らが力強く日本女子3C界を牽引していくことだろう。
西本優子(写真中央)は国内、海外で大活躍
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