Player Pick Up 野内麻聖美
プロ11年目でついにG2制覇!
「11年プロやってきて、それがようやく実現して、それも勝てた訳ですから、内容がスーパーラッキーだったとしても感慨深いですよ」
これは先の北陸オープンで曽根恭子を下して優勝を果たした野内麻聖美のコメント冒頭部分で、「曽根(恭子)プロにはアマチュア時代からすごくお世話になり、師弟関係のような間柄だったので、ずっとファイナルで対戦することが目標でしたから」と話は続いた。そして、「曽根さんは何度もファイナルへ行くけど、私はそこまでなかなか残れなかったですから」とも。確かに野内はプロ公式戦で3度目の優勝だが、その活動期間中に曽根は実に20回近いファイナルを経験している。
曽根との決勝戦、ゲームボールを前にする野内
野内はプロとして
栗林美幸の1年後輩で、
河原千尋の1年先輩にあたるJPBA38期生。2004年にプロ入りを果たした同期には
光岡純子がいる。栗林と光岡が出産のため戦列を離れた2012年、その前年には野内が単独で長期にわたる台湾修行に挑戦したため、河原が突出した成績を残すこと以外、近年の4人を正確に比較するデータを取ることが叶わない。
だが、野内の突出したキャラクターは河原の戦績に匹敵するところで、これは「ビリヤードをしない人にも試合を観てもらえるように」というデビュー当初から貫くポリシーを映し出している。試合中でも客席に向かってジョークを飛ばしたり、敗戦後には笑いを誘う悪態をついたり、勝った時には喜びの舞を披露するなど、基本、コメディの要素が大きなウェイトを占める。
決勝前の入場シーンでもパフォーマンスは欠かさない
また女子プロツアーで行われるペアマッチイベントでは積極的にマイクを握って盛り上げてきた。そんな様々なプレー以外の演出もあり、『ガッツポーズ』とか『メガネ』というワンフレーズで、多くのビリヤードファンは野内を連想するに違いない。この"ワンフレーズ"を備えているプロは極めて少ない。こうした点で野内は"記録"より"記憶"が先行した珍しいタイプに数えることができる。
今大会の野内の足跡を辿ると、初日の初戦で
中村こずえに敗れ「また、負け負け?」(野内)という土壇場から、3連勝を果たして決勝日に進出。そして今年のジャパンオープン覇者である
呉芷婷(台湾)と地元北陸の
藤井寛美をともに1点に抑えて決勝戦へ進む。ファイナルは7-5のスコアで、アマ時代から師事していた曽根との接戦を制した。終わってみれば、2日間の得点45に対して失点は20点。胸を張れる記録(数字)だ。
準決勝では藤井寛美を7-1で下す
その達成直後に「(現在師と仰ぐ)片岡(久直)プロから教わっていることでできなかったことが反省点」だと振り返る。「まだ実戦で生かせない課題も多い」ことを踏まえた上で、「もちろん常に頂点を目指して戦ってはいますよ」と言う野内。この理想と現実を自身の内部で消化し続けることこそが、野内の成長が止まらない要因であると記者は見ている。現に「一番、練習をしているプロなんじゃないか」という先輩プロの声もある。
ゲームボールを沈めた直後の野内
思えば北陸オープンに女子の部が創設された1997年に曽根が優勝している。それから15年以上経ってもなおさらに優雅さに磨きをかけて優勝候補の1人でいることは、その間にずっと成長を続けてきた証に他ならない。そんな先を行くライバルたちが切り拓いた道を、野内もまた新しい色で突き進んでゆくのだろう。野内の談話を聞くにつれ、初めてのG2タイトル奪取は、1つの通過点過ぎないのだと感じされられた。今後は記憶と記録がどう絡み合ってゆくのか。先が読めない野内劇場だが、努力というシナリオは着実に書き進められている。
なお今大会でデビューしたニュータイプのメガネについては、写真でご確認いただきたい。
Akira TAKATA