挑戦を続ける日本のCUE事情
早川工房の外観。上階はビリヤード場『SOWLWOOD』
自動車や家電を筆頭に世界中で技術力が認められているメイドインジャパン。ビリヤードの世界でも日本のメーカーは絶大な支持を得ており、MUSASHIシリーズでお馴染みの(株)アダムジャパン(埼玉)とEXCEED、MEZZブランドで名を馳せる(株)三木(群馬)の2社は既に揺るぎない世界のトップブランドとして浸透している。
さらに大小のキューメーカーが国内には存在していて、それぞれ独自のカラーを備えてオリジナルキューを供給する状況となっている。先の東海グランプリで優勝を果たした羅立文が使用するKeithAndy(岡山)や、2011年世界チャンピオンの赤狩山幸男が愛用するTⅡ Factory(大阪)なども、愛用者が多く、その名を知らないビリヤードファンはほぼ皆無だろう。
オリジナルキューを手にする早川疏氏
他にも大小のメーカーが工夫を重ねる中、固定概念という枠を破ったユニークなキュー作り、およびカスタマイズで知られるメーカーが存在する。滋賀県栗東市にある『早川工房』は、キューの革巻きをいち早く行って大きなシェアを獲得した後、現在はオリジナリティの高いカスタムキュー製作、さらにはキューに個性を吹き込む彩り鮮やかなカスタマイズを行うクラフトショップとして精力的に活動を続けている。
ポリカーボネート素材をキューに組み込むためのパーツ部分
「最近はポリカーボネートという透明な素材に着目して、キューのパーツとして装飾として活用しています」(代表・早川疏氏)これは機動隊の盾などに用いられている強度と弾力を備える素材だそうで、現在は無色透明と黒色の2種類を用意しているという。早川氏はこれをブレイク用のタップやキュー先に使う座として商品化。ただし「(タップは)ジャンプキューにはあまり向かなかった」と開発段階で用途と性能の検証も忘れてはいない。
中央の3本が透明部分を大きく組み込んだブレイクキュー
そしてブレイクキューには大きなパーツでこれを組み込むことに成功。さらにはつい先日、プレーキューのグリップ部分に使用して実用性を兼ね備える域に到達したことから、近々透明なパーツを組み込んだプレーキューも発売されるという。ちなみに座などとは異なり、連結部分に一体感を持たせる必要があることから、加工は工房仲間の鉄工所で施したそうだ。
早川氏がカスタマイズを施したキュー先たち
また、「手軽にマイキューを自分好みにカスタマイズしたらビリヤードが楽しくなるだろう」(同)という思いから、座、先角などをカスタマイズする作業の請け負いも行っているという。確かに最近、試合で見慣れないキュー先をちらほら見かける機会があり、こちらはお手軽な価格となっているので、マイキューに個性を持たせたいという人にはオススメだ。並行して「古いキューを今風のデザイン、性能に改造を施す」レストア的な試みも行われている。
こちらは近日発売されるプレーキューの透明部分
今回は早川工房のオリジナリティの高さを紹介したが、他にも国内にはカスタムキューの製造やチューンナップを行っている工房は数多く存在している。運命の1本に出会う旅に出るもよし、また量産のキューでもカスタマイズを加えることにより世界で1本のキューに変身を遂げることも可能。
ビリヤードの世界において、個人が用意する道具は極めて少ない。そんな道具をもっと自由に楽しむ時代が訪れている。マイキューをもっと自分好みに、自分だけのオリジナルに、と欲張っても良いのだろう。そんな要望に応えることができるのも、日本人の器用さと勤勉さがあってのもの。メイドインジャパンの進撃はまだまだ続きそうだ。
早川工房ホームページ
Akira TAKATA