Player Pick up 栗林達
12回目にしてJPBAの公式戦(G2)として開催された『兵庫オープン』を制したのは、心身ともに充実した様子が漲る栗林達だった。今年、東日本グランプリで3連勝を達成している彼にとって、これで早くもシーズン4勝目。ランキングレースが激しくなる秋のシーズンに向けて絶好のポジション取りに成功した格好となる。
そんな栗林は最近、色んな意味で突き抜けたと感じさせる。「世界選手権で変わった」というビリヤードに対する意識。明確な目標と自身の課題を客観的に分析する俯瞰的な目線。そして目標に向かって確実に前進を続ける様など、アスリートとしてブレない逞しさを纏った様子だ。そんな境地に立った男が強さを見せ付けた。そんな2日間だった。
特設会場では買い物客に向けてトリックショットショーが行われる。以前から何度も登場して、既に『ニッケパークタウン』ではお馴染みとなりつつある栗林。今年も試合の合間にショーを披露しては、大きな拍手のシャワーを浴びていた。
この試合とショーの両立について栗林に尋ねると、凛とした表情できっぱりと返事が返ってきた。「試合とは別物なので、体力や集中力が途切れるということはありません。むしろ応援して下さる方が増えて、疲れがとれる感覚があります。これは(同様にイベントに出場し続けている)川端さん(聡プロ)もきっと似た感覚だと思います」。
さらに会場での変化についても口にした。「年々、ビリヤードに対して理解度が高まってきたと感じています。これは『ニッケパークタウンでは1年に1度ビリヤードの大会がある』ということを、みんな(お客さんやお店の人)が身近に感じて理解して下さったということだと思います」。
その距離感は、きっとギャラリーから見た栗林にも当てはまるだろう。「毎年来てショーをする人」に親近感を覚えても何ら不思議はない。
そんな栗林が決勝日の5試合で挙げた得点は40点。その間に失った点数はわずかに12点。交互ブレイクのナインボールでは驚異的な数字だ。地道に続けてきた活動によって加古川をホームの空気にした効果も影響しているのかもしれない。ただ、栗林はもっと高いところから広い視野でトーナメントを、そして自分自身を見つめている。この点こそが今の栗林の強さに違いない。
シーズン後半への想いを聞くと、その思いは確信に変わった。「目標を定め、覚悟を決めて、日々の練習が出来ています。高いモチベーションで後半戦に臨めるので良い感触ですね。そして今日出来るプレーが僕の今の最大限のプレー。それがありのままの僕のプレーだと思って観ていただいて結構ですので、それを楽しんでいただいて、出来れば応援していただけると幸いです」。
練習環境や時間がままならないこともあるだろう。だが「今出来ることを全力でやる」と腹を括った男は強い。その点は「よくビリヤードの話をする」美幸夫人もしかりだろう。「悪いところ、足りないところもしっかり見つめて」今日も前進を続ける。「北陸が生んだ世界の超人」とは兵庫オープンの選手紹介で使われたフレーズ。今の栗林が抱いている覚悟は、まさに"世界の超人"に相応しいものだ。
そして「最後にこれは言わせて下さい」と超人から出た言葉。「プロの公式戦は多い方が良いですし、その開催に当たって、良い舞台を用意していただける時に、僕は協力する覚悟があります。そして今回もHRC、アマチュア連盟、ニッケさん、兵庫オープンをスポンサード、サポートして下さった全員の方に心から御礼を伝えさせて下さい。本当にありがとうございました」。
超人の夏は最高の形で終わった。一息つく間もなく、今週末は『関東オープン』が、そして次週には『東海グランプリ』が開催され秋のハイシーズンへと突入する。そこで栗林が披露し続けるであろう『その日のベスト』というドラマ。世界の頂点へとつながるストーリーの主役を務める超人劇場は、是が非でも見ておくべし。
Akira TAKATA