Player Pick up 水下広之
全日本選手権者・水下広之
既報の通り、25日(日)に開催された第13回全日本スヌーカー選手権(竹田杯)は、日本プロポケットビリヤード連盟(JPBA)所属の水下広之が最も多くのボールを沈め、競技の枠を無視するならば、'11年のグランプリイースト第5戦以来の公式戦優勝を遂げた。
水下はポケットビリヤードのプロとして活動を始めた後に、強くなるための学ぶべき要素をスヌーカーに見出し、異なるキュースポーツの門戸を開いたプレイヤー。
やはりプロとしての活動がある以上、ポケットビリヤードの練習の方が割合としては多くなるものの、競技への愛着はすでに同等以上のレベルにあるという。最近は特にスヌーカーでの成長が自身で気付くほどに著しいようで、ポケットビリヤードに悪い影響を及ぼさないかを心配するほど。
前日の決勝ラウンド(4名・4組によるリーグ戦。上位2名が決勝シングル進出)では1勝2分けと思うような成績での通過とはならなかったが、決勝日は会心の出来。初戦の相手は前回大会覇者で、修行中のスヌーカー先進国・タイから一時帰国していた桑田哲也選手。
「竹槍一本で挑んでいった(笑)」(以下、水下本人談)。冗談半分で心境を振り返った試合は、この日一番苦しんだ試合だった。互いにとって当日初試合。桑田が自らを、そしてテーブルのコンディションを掴むことがままならない内にみるみるリードを広げて行き、3-1で決着を見た。仮にも相手は前日の決勝ラウンドで91点(今大会のハイエストブレイク[最高連続得点])を叩き出している日本スヌーカー界を牽引する強敵。視点を変えればここを乗り越えたことが、水下を加速度的に調子付かせた。そして、勝ち進んだ決勝の相手は13歳の中学1年生。球筋を除けば、年半ばもいかない"少年"。
「(渓心くんは)本当にすばらしいプレイヤーだと思います。距離的に遠いので限りはありますけど、できるだけ彼が強くなるための手助けはしていきたいです。日本の星ですからね」
「(彼には)来年はもう勝てないでしょうね」とは水下
年齢差、キャリア差などをふまえると、決勝には普段の試合とは違う『やりづらさ』があったことは本人も認めているが、それでも大人として、勝負の世界に生きる先輩として、堂々と大きな壁となって立ちはだかってみせた。渓心選手がこれから飛躍をするのならば、水下が行った"講義"が大きな役割を果たすことだろう。
今回の勝因=それは準備。実は水下、この日のための練習にかなりの時間を費やしてきたという。「全日本」に懸ける想いはひとしおで、その渇望ぶりは談話からも窺える。
「この大会のためだけにかなりの練習をしてきていたので、実は来週のグランプリ(第4戦/東京・大森開催)の出場は辞退しようかとも考えました。結果的にナインボールでの開催なので助かったのですが、もしテンボールだった場合は、僕はブレイクの調整にかなりの時間を割かないといけないので、1週間で合わせることは無理だったと思います」
そして今後もポケット、スヌーカーそれぞれでレベルアップを図っていきたいと意欲を覗かせる。それはどちらか一方のために他方がある訳ではなく、あくまで"一緒に"だ。果たして、この異色キューイスト(CUEIST)が、二刀流で切り拓く道は「天下無双」へと向かっているのか。少なくとも新たなプロプレイヤー像を我々に提示してくれることは間違いないだろう。