平口結貴という『進撃の小娘』の話
女流球聖戦で東西代表戦を制し、球聖位決定戦で敗退。そしてアマナインでは3位入賞。昨年末の『世界ジュニア選手権』で銀メダルを獲得して以来、平口結貴は国内戦でも目覚ましい活躍を続けている。彼女の躍進が小西にとって好影響を与えると見る者が多く、佐原弘子現女流球聖もその1人だ。
「世代が近い女子選手がいれば、女子トークもできるし、悩みを気軽に話したりもできると思います。そしてライバルの存在はありがたいです。ちょうど私と米田(理沙)さんがそうで、『私の方が練習をしたから、次こそは差がついたハズ』と思って試合で対戦すると『アレ? 相手も同じだけ強くなっていた』。っていうことを何度繰り返したことかわかりません(笑)」
札幌のVIVAPOOLでの平口&小西。「女子らしい自然なツーショットを」のリクエストで
そして前編でも紹介した通り、さっそく効果は表れ始めている。既に実力を評価される位置にいるが、小西さみあも平口もまだまだ上しか見えておらず、いわばスタートの位置に立った状態。その姿勢でいる限り、成長が止まることはないだろう。これは佐原や米田もしかりで、国内女子アマ界が新戦国時代に突入したと見て間違いない。当分の間、ハイスピードレースが予想される。
ただ、そんな台風の目となった平口の目覚ましい上達を「若さ」で語ると本質を見落とすことになる。女流球聖戦で見た彼女のプレーには、精神状態に影響を受けにくい基本動作が埋め込まれていて、攻守のジャッジにもまた、自身にとっての正解を導き出すルーティンがあると見受けられた。これが感性に依るところでなく、意図して作られたものであれば、活躍著しい中国女子のそれと同じ系譜を辿るタイプにカテゴリ分けすることができるというものだった。
女流球聖戦で見せた平口のプレーは若さと勢いだけで語る事はできない
これについては現在のコーチである鳴海大蔵プロに、直接話を聞いてみたところ、それらが意図的に指導の中で培われていたことが判明した。必要性を叫ばれていながら、浸透に時間がかかっているコーチ制度の確立に大きな前進の契機となるに違いない。そう確信させるほど明快な理論を備えたものだった。
平口には2人のコーチがいる。地元で平口が「お兄さん」と呼ぶ、家族のような間柄である小山峰紀プロが1人目のコーチ。以前に誌面でも紹介したが、「いずれ僕では教えられなくなって、新しいコーチにお願いする時が来ると思う。だから基本を重視して、体幹がブレない大きなフォームを」軸に指導を行ってきた。
自身もビリヤード復帰を果たした鳴海氏
そして昨秋に世界ジュニアを前に、重圧に揺れ葛藤で脆くなった平口が、約5年ぶりに鳴海氏と再会。「ビリヤードを楽しむことを思い出させようと思った」鳴海氏は、札幌に平口を呼んで気分転換をさせようと試みた。その内に平口は「鳴海さんにビリヤードを教えて欲しい」と頼むようになる。「それは止めておいた方がいい」と反対する鳴海氏だったが、執拗に食い下がる平口を前に、「そこまで言う覚悟があるのなら」と、世界ジュニアまでの期間、コーチを引き受けた。
以後、週末になると札幌を訪れて鳴海氏に指導を仰ぐ生活は今日まで続いている。「下手だけど、それなりに形になってきた」「エライですよ。泣きながらでも練習を続けますから」鳴海氏の厳しい指導に「やめたいと思ったことは一度もありません」と平口は言う。そこにはオンとオフの切り替えを重んじる鳴海氏の方針が奏功していると感じた。
ゲーム中がオンなら、インターバルはオフ。先の女流球聖位決定戦でも、セット中は集中した良い表情をする平口だが、休憩時間になると、それが勝った後でも負けた後でも、笑顔で電話をかけていた。終了直後は母親の横でひとしきり号泣した平口が、表彰式が終わると「佐原さん、一緒に写真を撮ってください」とねだり「ラインとかやってますか?」とオフサイドの真骨頂に。
北海道オープン会場にて。結「大丈夫ですか? 付き合ってるとか思われませんか? ぐふふふふ」隼「ハァ!?」
「結貴はもっている」という鳴海氏の言葉は、2人のコーチとの出会いもしかり。前編で紹介したテレビ番組の中でも、ただならぬ大物感を、彼女はいつも通りの自然体で醸し出していた。ちょうど今日、平口はジュニアの2014年女子代表決定戦のために東京へ向かっている。そんな彼女が歩んでいる道について、8月発売のCUE'S誌面でより掘り下げてお届けする予定なので、ぜひご覧いただきたい。
最後に鳴海氏のコメントからエピソードを1つ。
「ただ、結貴はちょっと変わっているんですよ。僕は練習の時は厳しいですし、平気で怒鳴るし、怒られる方以上に『女の子相手に怒鳴ってるオッサン』の方が恥ずかしいんだって、いつも言って聞かせているんですけどね。『お前は、何回言ったらわかるんだ!?』って大声を出した時、結貴は何て返事したと思います? 真顔でこう言ったんですよ。本当に。『3回です』って」
鳴海氏と平口。鳴海「よし、このポーズだ」平口「やめてください! 怖いから。ハハハハハ」
平口結貴16歳と3ヶ月。苫小牧で生まれた大型タイフーンの進撃はまだプロローグ。
Akira TAKATA