Player Pick up 田中雅明
2013西日本グランプリは全4戦。その5割となる2試合で連続優勝を遂げ、シリーズチャンピオンに輝いたのは、『手球のアーティスト』の異名で知られる田中雅明だった。
先のレポートでもお伝えしたが、最終戦会場で行われたギャラリーとプロによるペアマッチでは、田中のファンであるという香川県のアマチュア選手とコンビを組み、そこでも優勝して1日2勝。
1日で2勝。西日本グランプリ最終戦は「田中雅明の日」となった
そんなファンサービスの場でも田中のショットは高い視聴率を集めていた。バンクショットを狙えば、防御本能が働いたかのようなアンドセーフティを公式戦さながらの絶妙な力加減で決める。セーフティを仕掛けられれば、歯切れよいショットから超攻撃的キスインでポケット。他のプロもそうだが、公式戦ではしないセレクトのショットも飛び出て、プロの上手さをお披露目する機会としても貴重な場となっていた。
今シーズンの田中は「感触は悪くない」と口にしていた。特に先の最終戦では、プレー中の足取りも軽く、ピンチの出番も「魅せるチャンス」くらいの表情を見せていたほど好調ぶりが窺えるものだった。無論、ノーミスという訳ではないが、観戦しているプロをも唸らせるショットの数々は、田中の真骨頂と言ってよいものだろう。
スキルとメンタルが噛み合った田中の姿からは余裕すら感じられた
仮に『この日の一球』を挙げるとすれば、決勝戦(対
青木亮二、4先×2)の2セット目の2ラック目の1番。ブレイクで6番が入った後の1番に対するショットまでの動きを注目しながら見ると面白い。
手球にこだわるスタイルでファンだけでなくプロをも唸らせた
ショットまでの時間(40秒ショットクロック)、その全てを2に対する手球のライン確認に費やし、結果、田中らしい柔らかく優しいタッチで、1を沈めて手球を軽く2番に当ててポジションし、以降は教科書のようなマスワリを完成させた。いかに1のシュートに不安がなかったかが窺える。
表彰式後はいつも通り笑顔で撮影に応じ、地元に戻った後はとびきり美味しいビールを飲んだに違いない。日本一に輝いた2009年。そのずっと昔、アマチュアだった時代。そして今も田中流は変わらない。自分の手球を見つめ続け、決して厚くはせず、また自身も熱くなり過ぎず、淡々とポジションをし続けてきた。そして仕事の後のビールを楽しむ。まさに職人のように。
北陸、そして全日本......。田中の次なる狙いはもちろん秋のビッグゲームだ
もちろん日々の進化を続けている。言葉でもなく態度でもなく、ただ黙々と手球で表現を続けるのみ。そんなアーティストが秋の大舞台で静かに観客を魅了してくれる。そんな予感がする。
Akira TAKATA