9月1日(日)に名古屋市の『マーシー』において『第53期名人戦・名人位決定戦』が開催された。結論から入ると、和田敏幸(愛知)が防衛を達成し、第51期から数えて通算3度目の名人位の座を獲った。
しかし会場に集まった100人近いギャラリー達は、勝敗を超えた感動を、陣営の垣根を越えた絆を持ち帰ったに違いない。記者も白熱した好ゲームに立ち会えたことに感謝しつつ、両選手が精神的にギリギリなところまで追い詰められながら、声援に応えて敢然と立ち向かった勇姿を撮れたことを嬉しく思う、そんな一日だった。
醍醐雅人(中央)とともに千葉応援団も長い一日を戦った。
毎年、盛り上がりを見せる決定戦。今年は会場全体が最高潮のボルテージを保ったまま、プレイヤーと応援団が一体となった状態をキープして終了を迎えた。スコアの経緯では(ローテーション300点ゲームの)5セット先取のフォーマットで、和田が2連取の後に挑戦者の醍醐雅人(千葉)が3連取で返して逆転。そこから和田が3連取で防衛達成という流れ。
ただ、この終盤はそれぞれに大きなドラマがあり、醍醐陣営にとってはアンラッキーなショットが要所で出たのも事実。これについては、防衛を達成した和田本人も「今日は本当にツイていました」と「勝因を挙げるとすれば運勢」といった見解を示した。
その具体例を挙げると、醍醐がセットカウント4-2とするはずだった取り切りの場面、残り5球で痛いスキッドもあった。これを落として3-3となった第7セットも最終ラックへ突入し、今度は和田が決めたセーフティに対して、醍醐が2クッションから6-11コンビを決めるもスクラッチ。これらのシーンは映像撮影を行って下記にアップしてあるので、ぜひ会場の空気感と一緒に味わっていただきたい。
醍醐は試合開始時には「頑張りますのでよろしくお願いします」と千葉から駆け付けた大応援団に頭を下げ、終了直後にも「今日は本当にありがとうございました」と挨拶、そして「すみません」と続けた。展開に逆風が吹いても挫けることなく最後まで闘い抜いた挑戦者。会場中から健闘を讃える拍手が贈られ、醍醐はもう一度、深々と頭を下げた。
終わってみれば、勝利の女神が和田に微笑んだ。そんな決定戦だったと言えるだろう。それは和田が経験した昨年の防衛戦(対石橋正則・千葉)で高めた経験値であり、それ以降の1年間を高い意識を持って過ごした結果の成長を示したものなのかもしれない。この激闘を演じた両雄の今後の再戦が今から楽しみだ。両選手と応援団に感謝の気持ちを込めて。