Player Pick Up 梶谷景美
既報の通り、『全日本女子プロツアー第1戦』で今季初優勝を飾った梶谷景美が試合後に語った言葉は、真のプロフェッショナリズムを感じさせた。
女王・梶谷景美の言葉は重みが違う
今季初優勝については、自身が今季ここまで思うような結果を出せていなかったことや決勝の相手・曽根恭子がシーズンを優勝からスタートし、ハイアベレージを記録(関西オープン優勝、大阪クイーンズオープン3位タイに続く準優勝)していることにも触れる。
梶谷は「彼女(曽根)は優勝っていういい形でシーズンに入れたので、その流れを維持したままプレーできてますよね。私はベスト8(関西レディースオープン)、予選敗退(大阪クイーンズオープン)と思うような結果を出せていなかったので、悪い流れを断ち切るのに苦労しました」とシーズンのこれまでと共に今大会を振り返った。
また、「プロにとって1ヶ月前後の長い間隔で大会(女子)が行われていることで、試合までの調整が難しい」と同業者達の苦しみを説明した。特に低空飛行からシーズンインした選手にとっては、負け試合を受けての修正の確認をする機会がすぐに来ないことを要因と考えている模様。
そして今大会を「全試合が大変だったと」話しつつ、中でも「キツかったのはベスト8の藤井さん(寛美)との試合」だったと話した。0-4の劣勢からヒルヒルまで持ち込んだ試合であり、それは傍目からでもわかった。だが、プロはこの試合について、「藤井さんにいくつかのチャンスをもらって」勝利したと述懐した。悪い流れはこの消耗戦により払拭できたのかもしれない。
藤井寛美とのヒルヒルの試合は、本当に"あわや"といった内容だった
では、決勝の曽根戦はどうだったのだろう。「彼女に不運な形になることが多かったので、そこから勝利に結び付けることができた」と説明。確かにそういう場面は幾度か見られた。梶谷のミスショットの残りが隠れ、曽根が渾身のキックショットを披露するも、残りがまた隠れるといったこともあった。
最後に大会全体の自身のパフォーマンスを採点してもらったところ「80点〜90点ですね」と高評化。理由は「優勝という結果を求めて臨んでいるため、それを実現したという意味ではそのぐらい」は付けられるとのこと。これは彼女自身が語った相手にとっての不運≒自身の幸運も含めての点数である。
「女王」として女子プロを牽引して来た梶谷には失礼にあたるかも知れないが、話を聞き終えた時点で頭をよぎったのは、45年を超えて世の男性を中心に愛読され、プロフェッショナルの鏡とされている世界を股にかけて仕事をこなすスナイパー・『ゴルゴ13』だった(作・さいとうたかを。主人公と同名タイトルの劇画)。
作品中では、主人公のゴルゴ13を知る者達はそのマシンのような正確無比の射撃のスキルは当然ながら、それと同格ぐらいに「常に第三者の目線で自分を見詰めることができる」ことに対して賞賛、恐れを抱く。様々な人物達がそれも何度も(異なるストーリーの中で)。
梶谷は試合を振り返る時も相手のパフォーマンスを通しての自分、自身について語る時も、他のプロの存在がいる中での自分を語る。「常に俯瞰で自身を見詰めているのか?」という問いには、「そうですね」と当然とも言わんばかりの返答を頂戴した。
梶谷の視点とは、こんな感じなのだろうか!?
そして、最後に聞いた自身への採点がゴルゴ13を思い起こさせた決定的な解答だった。彼が作中で発した名言の中に以下のようなものがる。「プロとしての条件」を尋ねられた時の答えだ。
「10%の才能と20%の努力、そして30%の臆病さ、......残りの40%は、......運だろうな」(※)
これは45年を超える連載(現在も好評連載中)の中で、それこそ数えきれないほどの依頼を成功裏に終えてきたプロフェッショナル中のプロフェッショナルの言葉である。
言葉の解釈は人それぞれあると思うが、何か物事を達成するのに自分1人だけでできることは半分ぐらいだとも取れるし、最高の準備をしておけば運を引き寄せられるとも取れるだろう。ぜひとも、自分自身のことに当てはめて見てほしい言葉だ。
女子プロである梶谷が、外見や職業、立ち振る舞いなどが似ているなどということでは決してないのでここに訂正しておく。イメージが重なるのは梶谷のプロフェッショナリズムだと強調したい。職業が、互いに「シュート」を生業としている部分は―
「.........偶然だ」。
※『ロックフォードの野望(謀略の死角)』より。補足すると、ここで言う「臆病さ」とはプロフェッショナルならではのメンタリティ、考え方、習性などを指していると思われる。ゴルゴ13が人に背後に立たれると反射的に相手を攻撃してしまうという有名な習性はその最たる例の1つだ(ゴルゴ13は職業柄命の危険が多いため、自然とそのような防衛反応を見せる)。