都道府県対抗を側面から見る(その2)
京都(左)vs広島(右)のバンキング。中央の背中は宮城の選手。後方の旗もまた全国大会
優勝した千葉Aチームの石橋正則が『第49回都道府県対抗PB選手権大会』で2度目のMVPを獲得した。この個人成績集計の対象は予選ブロックのリーグ戦のみで、石橋は224名の参加者中、10戦全勝の戦績でただ1人の勝率10割を収めた。しかも石橋の全勝は今回で3度目。昨年の『名人戦』で挑戦者まで上がった実力を改めて示したと言えるだろう。
ちなみに1試合の勝率を5割と考えた場合、10戦全勝する確率は1000分の1を切り、事実上不可能なものとなる。選手たちの声を拾うと、おおむね10試合中2試合は「自分のミスで」落とし、逆に2試合を「ラッキーで」拾い、残る6試合を実力や展開で「相応の結果」
というところが平均的なところ。石橋は2試合を落とさず、ラッキーも逃さず、残る6試合が相応の結果だったということだろう。
大阪Bチームのメンバー。木村崇彦(右2)選手は「後輩から(5人揃えるために)頼まれて」約20年ぶりの出場
この確率を超えたところで超人が誕生し、輝かしい個人成績として他の大会のタイトルと同様に称号と栄誉が与えられる。このMVP受賞者はJPBAのプロテスト実技免除の対象にもなっている。もちろん全勝に限らず、こうした全国から競技者が集う場で、6割や7割の勝率はすでに猛者の証であり、さらにチーム全体で運勢を呼び込んで、初めて決勝トーナメントに進出を果たせるのがこの大会だ。
こうして勝者は讃えられてしかるべきだが、ここで勝者と同数存在する敗者についても触れておきたい。今回は9都府県が『Bチーム』を代表として送り込んだ。中には「おそらく好成績は出せないであろう」と思いつつ2チーム目を編成した県も少なくない。特に今年は(全敗の選手に対して)「目指せ1勝」とチーム内で励まし合う姿も多く見受けられた。
チーム戦ならではの『スタンバイ席』の風景。1人はみんなのために、みんなは1人のために
この空気こそスポーツの魅力であり、あるべき姿ではないだろうか。ビリヤードという競技を愛し、日々トレーニングを積んだ選手たちが、特設会場で一堂に集う。この会場の空気には個々のスキルやテクニックを超えた絆が存在している。それは団体戦ならではのものかもしれない。都道府県対抗が舞台を京都から和歌山へ遷したのが2003年。以降、毎年その現場で取材を行ってきた立場として、「あそこで戦ってみたい」という声を聞く機会は格段に増えてきた。
それは主催者と参加者が一体となり『日本一の祭典』という誇りを持って継続してきたことの結晶に他ならないと思う。そして今回も出場した全選手が『かけがえのない経験』を持ち帰った。初出場の選手などはまさに掛け値なしの経験値を得たに違いない。
都道府県対抗の会場では『笑顔』が本当に多い。白いジャケットはもう東京の専売特許!?
ヒーローが輝き讃えられるのが大会なら、勝敗に関わらず参加することに意義があるのも大会。そういう意味で都道府県対抗の進化にともない、全国的にレベルが高くなったことも、地域を超えた選手間の交流が加速したことも、評価されてしかるべきだろう。まさに全国のビリヤード愛好家の意識と主催・運営サイドの行動と地元が連携した集大成だと感じる。
埼玉チーム『祈り』の図。『静のスポーツ』の魅力が最大限に引き出される瞬間だ
そして何度も記してきたが、来年はいよいよ50回大会を迎える。主催するJAPAは、より多くの県からエントリーを迎えるべく準備を始めている。本命と目される中で日本一の座を実際に射止めた千葉チームをあらためて讃えるとともに、『参加することに意義がある』大会をより多くの愛好家に見て欲しい、という願いをここに。
Akira TAKATA