都道府県対抗を側面から見る(その1)
特設会場が醸し出す「特別な場所」。そのすべてに敬意が込められている
先週末は和歌山が沸いた。『全日本都道府県対抗PB選手権大会』は個人成績をチーム単位で勝敗を総計した数字で競うものだが、個々の技量を超えたパワーが存在し、それは目に見える形で順位に影響を及ぼしていると感じる。本大会へ初めて取材で訪れた特派員の仲間はそこにある"何か"を『敬意』という言葉で表した。
その表現を掘り下げてみると、この大会の盛り上がりであったり、心地よい空気感や人々の笑顔にも、必ずそれが介在していることに気付かされる。さらに敬意という基盤が根付いて、そこに新しい風が吹いてきていることも感じる。
空路で和歌山入りした長崎チーム。国体記念大会の準備にも追われる中の参戦
「この広い会場でプレーができて気持ちがよかった」という長崎県チームは5人中4人が初出場。飛行機を使った長時間の移動は大変に違いないが、大会終了後には「来年はできれば2チームを出したい」と前向きなコメント。会場や大会に対する敬意が新たなパワーを生み出していると窺える。
昨年、日本一に輝いた静岡チームは、所属するSPBCの理事長が大会直前にご逝去されるという不幸にも直面し、さらには現地入りしてから選手変更を余儀なくされる事態にも見舞われたが、肩につけた喪章に誓った思いを胸に最後まで闘い抜いた。それも県としては初めての2チーム参加で、10人中5人が初めての出場だった。猛者揃いのチームにして連帯感も強い。「来年はさらにパワーアップしてきます」と進化を誓う。
強くて個性も豊か。今なお層を厚くして進化を続ける昨年優勝の静岡チーム
優勝した千葉Aや3位でジャンプアップ賞も受賞した広島も「新しい戦力の加入」を好成績の要因に挙げた。準優勝の奈良チームでも、7年前に優勝した時にはまだクラブにも加入していなかったメンバーの勝ち星が好成績の原動力だった。4位の愛知Aは近年に広島や島根から移籍した選手たちがいよいよ『愛知の人』として定着したことが総合力の高さを結果に結びつけた印象だ。
定着しつつあるテレビテーブルは『特設の中の特設テーブル』。そこに5番手(主将格)のカードのみを入れるのは「(照明による)難しいコンディションと極度な緊張を誘うと考えられるため」経験の浅い選手に対する運営側の配慮から。そこに「もっとレベルを問わず放送した方が『自分も出てみよう』と思えるのではないか」という意見が入るのも、やはり視聴者に対する配慮。すべてに敬意があってのものだ。
そして地元の議員が実際に会場に訪れ、同じく地元のテレビ局が取材に入るのも、ビリヤードを介して人がつながっている証。舞台の設営と撤収作業はアマチュア連盟員が行うが、その人数が年々目に見えて増えている。ここにも様々な想いがリンクしていて、決して義務とか責任ではない、やはり敬意が根底にある。
テーブルが絞られてくるといよいよ会場がひとつになりクライマックスを迎える
何より大会が大詰めを迎えると、県単位だったチームの選手たちが今度は大きな地区単位で応援団へと変身する。そしてワンショット毎に我が事のように喜び悲しみ、自然と大きな声や拍手が無意識で飛び出す。その集大成が優勝チームに贈られるとびきりの拍手。全参加者がひとつになる瞬間がこの大会のフィナーレだ。
選手も応援団も仲間。地域を超えたビリヤード愛と言うつながりだ
本大会は来年、50回の大きな節目を迎える。その歴史を担ってきた関係者や晴れ舞台に向けて練習に励むプレイヤーに、そしてこんなにも人々を魅了してやまないビリヤードという素晴らしい競技に敬意を込めてメッセージを発信したい。来年も、そして参加が叶わなかった県の人は来年こそ、『撞球甲子園』で会いましょう!
Akira TAKATA