Player Pick Up 夕川景子
『第24回大阪クイーンズオープン』を制した夕川
『大阪クイーンズオープン』の表彰式直後、優勝した夕川景子はプロ仲間から祝福されていた。コメントを貰おうとレコーダーを片手に近づき、「おめでとう」と声をかける。すると夕川が普段よりやや高いトーンで「ありがとうございますっ!」と応じる。小さな顔にバランスよく配置された大きな瞳をキラキラと輝かせさせながら。
『全日本女子ナインボールオープン』が生まれ変わったリニューアル大会を飾ったのは既報の通り夕川だった。彼女が昨年に『関東レディースオープン』で優勝したのは記憶に新しいが、実はオープン戦を制したのは、2002年の『ジャパンオープン』以来、実に10年ぶりであったということはあまり知られていない。その間に『全日本女子プロツアー』では8勝を挙げている。
今回の優勝により、プロ国内公式戦の全国ポイント対象試合では通算11勝を数える夕川。この公式戦(全国規模)二桁勝利達成というのは、現役の女子プレイヤーでは10人に満たない記録。夕川の後輩では栗林美幸と河原千尋の2人しか記録していない。その両名が日本ランキング1位の座を射止めたのに対して、夕川は過去に2度の3位が最高。何やらめぐり合わせの悪さを感じるところだ。
集中力と精神力は夕川の大きな武器だ
夕川の試合を観た者は「スゴい集中力」と口を揃える。ブレない精神力に感服する声も上がる。ただ、彼女の近くにいるビリヤード選手たちは、一様に「熱い」と証言し、それはプロデビュー以前から、それこそブレることがない。つまり10年以上にわたり365日をビリヤードに注ぎ込んでいると窺える。
「今日はラッキーもあったし、もっと良い内容で撞けるようにしたいですね」
試合中の集中から徐々に開放され、緊張感がほどける特別な時間。優勝という最高の結果を出しただけに、それはとびきり心地よいものだだろう。
「上の方にいくと、ベスト4とか決勝にいくと、プレッシャーがかかり過ぎるんで。以前はそんなに(重圧が)なかったように思うんですけど」
彼女はビリヤードのスキルに限らず、ずっと成長を続けている。それは全力で走り続けて、山や谷に直面しても時間をかけて崖を登り降りしたり、時には大幅な迂回をしたり、という印象だ。軽く飛び越えたり、あきらめて進路の再設定をするといった類のものではない。時に大きなケガも止む無し、そんな覚悟さえ見え隠れする。すべては勝利のため。と記すと大袈裟かもしれないが、彼女がビリヤードに向かう姿勢を知る者は、ほぼ似た感覚で見ているものと思われる。
1日24時間、それを365日。夕川はビリヤードと共に走り続けている
例えば2009年に『女子ナインボール世界選手権』が中国の瀋陽で初めて開催された時、そのステージ1が『全日本選手権』の日程と一部重複したため、シード権を持たない日本人選手は参加を見合わせた。ただでさえ絶望的に通過することがハードなステージ1。それが全日程で出場できなければ、ましてや、国内最大の試合直後という疲労度も踏まえれば、不参加が妥当な判断だろう。だが夕川はたった1人で渡航し、見事にステージ1通過を果たした。
その後、少し経った頃に「よく参戦したと思う」という話を本人にしたところ、現地の移動で迷子になりかけて台湾のビリヤード関係者に偶然出会って救われた、というユニークなエピソードが返ってきた。夕川がそう言ったということは、本当に会場がある町にたどり着けなかった可能性も高かっただろうし、そこで映画かドラマのような確率に遭遇することもまた彼女らしいと思う。
そんな武勇伝からも3年半の月日が流れている。その間に「以前に感じなかったプレシャー」が圧し掛かるようになったのだろう。「もっと良い内容で撞けるようになりたいですね」と締める。夕川はまだまだ走り続けるに違いない。24時間365日無休で。この姿勢こそプロとして最大で最高の資質。競技界に身を置き、プロとして生きるということは、自身の生き様に対する覚悟そのものでもあるのだから。
ジャパンオープンを制してから11年。今年の公式戦2試合を終えて単独首位に躍り出た夕川は、きっと今日も変わらず120%全力でテーブルに向っていることだろう。
Akira TAKATA