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過去のニュース(2013年)

2013.04.27 その他

コーチの重要性と将来性

野内麻聖美プロのケース

国内のビリヤードプレイヤーとしては珍しい試合中のパフォーマンスで注目を集める一方で、台湾へ単身修行に乗り込むなど、スキルアップにも励んできた野内麻聖美JPBA)。彼女が『記憶に残るプレイヤー』から『記録に残るプレイヤー』へと転身を遂げようとしている。

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野内プロが合宿を行ったのは大阪府茨木市の『ボンバークラブ』。片岡久直プロのお店だ


野内が台湾遠征に区切りをつけて国内戦に本格復帰を果たしたのが昨年。そして今年、2月と4月の2回にわたって大阪府茨木市の『ボンバークラブ』でそれぞれ5日~10日程度の合宿を行った。コーチは同店を経営する片岡久直プロ。彼は過去に『西日本プロツアー』(現西日本GP)で4連覇を達成するなどトッププロとして名を馳せる名手だ。

情報を聞きつけた特派員は茨木市へと向かった。そもそも、なぜ東京在住のプロが大阪で合宿を行っているのか?

「何年か前の北陸オープンで野内さんを見て『この子、キャラが面白いなと。彼女なら僕のアホな曲球とトークを継げる人材や』と思うてね」と片岡プロはきっかけとなった時期を振り返った。

そして同店に所属する土屋純子プロを通じて意向が伝えられて、『曲球継承の場』が設けられた。その時にトークと曲球だけでなく、競技としてのビリヤードでも教わりたいという思いが芽生えた野内。それが後に国内でコーチを探す場面で再燃し、梶谷景美プロに「片岡プロに教わりたいと考えているんですけど......」と相談して、背中を押してもらう格好となり大阪での合宿を決めた。

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レッスンでは、片岡プロが長年かけて培ったノウハウが惜しみなく伝授されていた


片岡プロと梶谷プロは元々『ビリヤード嶋崎』の出身で兄妹のような間柄。片岡プロも「アキちゃん(梶谷プロ)と一緒に撞いたりしているという話も聞いていたから」快く受け入れたという。その成果については、「まあ、『引き球出来ます』とか言うても、ぜんぜん引けへんけどね」と笑いも交えつつ、「前回よりもメチャメチャ良くなっている」と師匠も太鼓判を押す。もっとも引き球に関しては、「明け方の疲れ切った時に言うからです。昼間はちゃんと引けてますから」と弟子も譲らないのだが。

今回、合宿の最終日に訪れたが、店内では常連会が行われていて、強豪が集う中で野内は決勝戦まで進出。同店所属のSA級男子アマチュア選手から勝利を掴みかけたが、野内の1球のミスで勝敗はひっくり返った。片岡プロは「あのミスをしなければ100点のゲームやった」と讃えつつ、「あのショット(撞き方)は絶対になくさないと」と檄を飛ばす。野内自身も「やってはいけないミス」と心得ていて、終了後は黙々と同じ配置を繰り返した。

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猛者が集う『ボンバークラブ』の常連会。決勝のバンキング


この短期間で結果を求めるほど2人は焦ってはいない。ただ手応えは確実に見えるものとなりつつあり、「来年には結果で形になるんじゃないかな?」(片岡プロ)、「いえ、今年に結果を出します」(野内)と近い時期に成果が出てきそうな状況にある。

スポーツにおいてコーチは当たり前の存在。これまで国内では例が少ないが、中国や台湾で示されているようにすでにビリヤードにおいてもコーチが重要な役割を担う時代は訪れている。コーチがつけば勝てるようになる。そんな甘いフィールドではない。だが国内には片岡プロのように何十年にもわたって蓄積したノウハウを持つ名手たちがいて、それを吸収することが上達の近道となることには、異論を挟む余地はないだろう。

片「まあ、二十歳くらいで来てたらもっと強くなれたやろうけどね」
野「私、まだ球撞いてなかったですよ」
片「とにかくはよ優勝してビールをご馳走してくれることを楽しみにしてるわ」
野「いくらでもご馳走しますよ。焼肉でいいですか?」
片「いや、お好み焼きでいいねん。嫁さんと子供と3人でな。野内さんは(ボンバークラブの)店番してもらわんと(笑)」

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「片岡さん、表情が硬いですって!」「ワシらの世代は写真を撮られるの慣れてへんねん!」と掛け合いは続く


片岡プロが「俺の笑いを継げる人材」と見込んだ東京の女子プロ。そこからの流れは『瓢箪から駒』だともいえる。だが、キューを握る誰もが駒になる可能性は有している。ビールを片手に軽妙なトークで笑わせる師匠の横で、野内が秘密の練習メモを見せてくれた。 ビッシリと書き込まれたテーブル図と文字を撮っていると、ファイナルで『野内劇場』を目撃する日も遠くないと感じた。

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教わった秘伝がぎっしりと書き込まれた秘密メモ


「アカン、アカン。これは企業秘密やから、載せるんやったらちゃんとモザイクかけてや」秘伝体得に先駆けて、関西弁を習得したようだ。

Akira TAKATA