Player Pick up 竹中寛
今年の北海道を制した"サムライ"竹中寛
サムライのニックネームで親しまれる竹中寛。先の『北海道オープン』を華々しく制した彼の記事を書くにあたり、もし可能であればCUE'Sの2012年2月号(Vol.150)にあらためて目を通していただきたいと願っている。『全日本選手権』で日本人最高位の3位タイ入賞を果たした彼のインタビュー記事が、女子の光岡純子のそれとともに掲載されている号だ。
その特集は当時の編集担当者と2人、かなり楽しみながら作ったもので、実は北海道から戻った私は一番にこの号を引っ張り出して、2度読み返した。そして昨秋の『北陸オープン』に続き竹中が優勝したことで、過去の記事と写真に輝きを与えてくれたと感じ、感謝した。
多くのファンが熱い視線を送ったファイナル
今年の北海道オープンは特設会場での開催は叶わなかったが、大勢のギャラリーに囲まれた決勝戦は、十分すぎるほどの熱気に包まれていた。ポジションミスからのスーパーショット。まるで気迫で的球をポケットに入れるかのようなアクション。そして屈託のない笑顔。40歳代の男が子供のようにビリヤードを楽しむ様に、場内にいた人々は新鮮な香りが漂う「あまり見たことがないタイプ」の決勝戦に引き込まれていった。
その余韻が冷めやらぬ2日後、彼のコメントを取るために電話を入れた。まず、"一際"楽しそうに撞いていた点に話を向けた。
「ああ、(球は)入るわー、っていうイメージでいたので気分的に余裕はありましたよ」
そして間髪入れずにこう続けた。
「勝つか負けるかは、まあ、勝負は勝ちたいけど、それは結果なんでね」
この「勝ちたい」と「結果(を受け入れる)」の同居は竹中の本音だ。そういう人なのだ。だから「球が入るイメージ」は「勝てそうだ」ではなく、「良い試合ができそうだ」という解釈が妥当なものとなる。「勝ちたい」気持ちに心を縛られた時、ビリヤードでは負の力が働くことはほとんどのプレイヤーが経験済みだろう。
では、あの日の竹中は何が"一際"楽しかったのか?
「あんなに大勢のお客さんが観てくれて、最後の2人だけになった場所に自分が立てて、そこでビリヤードができるのは、そりゃあ楽しいですよね。前にも言うたけど、ビリヤードが楽しいんで」
会場で観戦した人ならきっとこの言葉に共感できることだろう。
試合中のアクション、表情でも魅せる!
しかしトレードマークとなりつつあるショット後のヘッドアップも一際だった。
「関西オープンの頃に体を動かさんようにしてたんですよ。でも『慎重になりすぎたな』っていうミスも出て、『カッコ悪くても長年やってきた自分でいこう』と」
対戦相手の
水下広之の全くブレない安定感抜群のフォームも手伝って、何やら異様なコントラストを醸し出していた。
「すべてが真逆のタイプですし、まあ、紳士とアレですからね(笑)」
どちらもイイ男だが、アーバンとワイルド、平成と昭和というのか、本当に真逆。そしてゲームは8-3で竹中が王手をかけて、2番に上手くポジションを出したところで勝利が確定したかに思われた。だがもっとも楽になったかに見えた4番を豪快にぶっ飛ばす。
「おいー!」の叫び声とともに竹中が取ったアクションで笑い声が沸き起こった。ここから水下がしっかり取り切って1点を返した。
「構えた時はポケットの真ん中でいいと思ったけど、やっぱりポジションに欲が出て、穴フリしようかと、迷いながら左(の撞点)を撞いてしまいました」
一日を通して最大の反省点だ。
ちなみに次ラックで3番を穴前に残すが、これは「ポジションするために、厚めから狙った球で、思ったよりポケットが拾わなかった」と説明。このラックは落とすも、14ラック目をマスワリで締めて優勝を飾り、"一際"大きな拍手で祝福された。このあたりは
CBNTの映像が配信されたら、ぜひ思い出しながらご覧いただきたい。
北陸に続いて北海道も制覇。「今年は勝負の年に?」と尋ねると「毎年、勝負やと思てるんですけどね(笑)」。ただし、竹中は昨年、期限が切れていたパスポートを取得し直して海外参戦にも備えている。
「(海外戦の)シードを持っている
大井(直幸プロ)に(海外戦の情報を)『教えて、気持ちはあるから』と言ってて、ひっついて連れて行ってもらおうと(笑)。そうそう、今年にキューを替えて、それが大井の紹介やったんで、『キューが合わないの?』って心配かけてましてね。キューはええんやけど球が入らへんだけやのに。そやから、優勝できてホッとしてます」
勝利の瞬間。竹中は高々と両手を挙げ喜びを爆発させた
そんな思いもあってか、ゲームボールを沈めた後のアクションも"一際"大きかった。
「北海道のファンを竹中流で存分に楽しませましたね?」
「でもね......。ホンマにみんなが応援してくれて、拍手もしてくれて、嬉しかったんです。せやのに、(表彰式で)マイクを持ったら全然しゃべられへんくて。伝えきれへんかったことが残念です」
表彰式では改めて優勝の喜びと感謝の気持ちを表した
実は冒頭で記したインタビューの取材時に、雑談の中で「ビリヤードを盛り上げたい。でも、僕には何をどうしていいかわからへんし、知恵のある人が動くなら協力はするしね。ホンマにビリヤードが大好きなんで」という話を竹中がしていた。
その『大好き』がファンを楽しませ、感動させるビリヤードの源。水下もしかり、3位入賞の
川端聡も
赤狩山幸男もしかり、スキルと個性を備えたプロたちが、最大の仕事である『魅せる』を全うしたことが、特設会場を作る以上のお膳立てになったのが今大会だったのだと。そう遅ればせながら気付きつつ。
Akira TAKATA