Player Pick Up 新井達雄
最終回転を前にして会場の東京『ビリヤード 小林』はざわついていた。優勝の可能性のある者がなんと出場9名中6名。リーグ戦星取表の前にプレイヤー達も集まる。
新井達雄は星取表を一瞥すると、それから会場の片隅に陣取り、首にサポーターを巻き、じっと出番を待っていた。長年首を痛めている新井の、会場でよく見掛ける姿だ。
勝者に贈られるアダムカップ
優勝争いが最終回転までもつれた『アダム杯・プロ選手権』。新井が優勝するには、最終戦で複数の条件を満たす必要があった。1=「優勝に一番近い島田暁夫を高いアベレージで倒して5勝3敗で終えること」。2=「島田の次に芽のある梅田竜二が小野寺健容に負けること」。3=「アベレージの高い竹島欧が界敦康に負けること」という注文が付いていた。
そして、新井は22キュー・40-15という快勝で条件その1を達成。続いてその3が叶い、最後にその2までが叶ったのだった。
'10年以来の公式戦優勝を飾った新井達雄
自然体で微笑む新井。「もちろん島田プロとの最終試合は良いゲームができたと思うけど、優勝できたのは一言で言えばラッキーだよね、他選手の結果は僕にはどうしようもできない訳だから。だから最後まで変な欲もなく、悪いプレッシャーもない状態だったよ」
本人は運勢を強調するが、思えば9月の『ジャパンカップ』で3位入賞したことが今回の優勝劇の序章だった。あれで年間ランキングが上がって今大会のシード権を手にした訳で、決して巡り合わせだけで勝ったのではない。「あの時、ベスト8でD・サンチェスを倒していて本当に良かったね(笑)」。
新井は一昨年の『全関東3C選手権』で優勝して以来、多くの大会で上位には進むものの優勝からは遠ざかっていた。54歳という年齢もある。「一日を通して勝ち切るのは本当に体力と気力がいる」と語る。今回はリーグ戦という形式も新井に味方したかもしれない。
「今は練習量で勝負するとか気合いで臨むというのとは違う感覚になっているかな。でも、終わってみれば、大会アベレージは梅田プロを上回ることができたし、年間ランキングも2位まで上がったし、嬉しいよね」
'13年も新井のプレーに期待ができそうだ
10歳下の梅田を始めとして中堅、若手の活躍が目立っていた近年の国内スリークッション戦線。ベテラン、新井の復権で、2013年シーズンはより一層面白くなるだろう。
〈T.KOBAYASHI(B.D.)〉