Player Pick up 年末スペシャル
常に見られるトップランナーはキューも大切に扱う。「色々なキューを試す中で道具に関する発見が多かった」とも。
2・1・3・1・1・3・1・2・2・1。
これは過去10年にわたる梶谷景美の日本ランキングを2003年から今年まで順に並べたもので、その間の平均順位は1.8位。
1990年代の後半に彼女が残す抜群の戦績に対してつけられた称号が"女王"。ただ、これほどまで長く活躍を続けることは、
当時誰も予想していなかっただろう。ちなみに"女王"の呼称が定着したのは、『ジャパンオープン』と『全日本選手権』のダブルタイトルをはじめタイトルを欲しいままに独占し『アジア選手権』でも準優勝を果たした1999年。今から14年前の話だ。
今年のジャパンオープン。ファイナルで河原千尋を破って'01年以来久々のタイトル獲得
梶谷が初めて大きなタイトルを獲ったのは1992年の『全日本選手権』。この時から20年の時を経て今だ超一線級の活躍を続けることは驚異的ですらあり、もはや"永世女王"と呼んでも差し支えのない、殿堂入りの域だろう。まさしく"女王"の肩書きはマッチしたものに違いないが、それが纏わりつくことは人生に影響を及ぼしているのではないか。ふとそんなことを感じる。
海外へ出れば日本の看板。誰が相手でも絶対に気後れはしない。それが女王の仕事。
「1位というのは孤独なポジションなんです」。これはインタビューや雑談の中で、折に触れ梶谷景美の口から漏れ聞こえるフレーズ。
梶谷に限らず競技界で頂点に立つということは、他の大勢とは異なる景色を眺める特権を得ることと引き換えに、
ライバルたちからは照準にされるということを余儀なくされる。そこに『女王』というニックネームがさらに拍車をかけてはいまいか。
「初優勝を目指してがんばります」。そんな初々しいルーキーが試合で懸命に"女王"に挑み、それが互角の展開ともなれば金星を応援する声が高まり、場内は梶谷にすればアウェイの空気に包まれることも少なくない。
だがそんなことでヘソを曲げてはいけない。敗戦直後でもファンに頼まれれば笑顔で応じなくてはいけない。
"女王"という肩書きが梶谷の振る舞いに多くの制約を設けてしまったのではないか。
入賞写真ではどんな結果であれ笑顔を絶やさない。この点は国内女子全体が高い意識を共有している。
試合会場では仲間や後輩のゲームを静かに観戦し応援する。後輩にアドバイスを求められれば丁寧に答え、客席が
埋まってくれば早々に席を立ってファンの席を奪わぬよう努める。それらはまさに女王の品格。
意欲のある若手プロへの助言を送り後進の育成に知恵の出し惜しみはせず、それが自身の立場を脅かす存在へと成長した時、さらにその親交は深まっている。もしかすると、彼女の孤独を少しでも共感できるポジションにたどり着いたことで意識の共有が芽生えるのかもしれない。
繰り返しになるが、全日本選手権を初めて制してから20年。梶谷にとって"女王"は誇れる称号だったのか、それとも重い鎧であったのか。想像するに後者の要素を感じるたびに自身の中で技術的に精神的に調整して前者へと変換してきたのではないだろうか。もう、それすらも無意識で行っている風にさえ見える。女王と呼んだのは他者でも、受け入れて生き方の標としたかのように。
「梶谷さんのアドバイスが練習に生かせた」木村真紀の初優勝。ファイナルの相手をおおらかに讃えた。
こんな外野の戯言に関係なく、年が明ければ2週目には"女王"梶谷の2013シーズンがスタートする。
『アジアインドアマーシャルアーツゲームズ日本予選』。場所は池袋の『ロサ』。2つの代表枠を巡る真剣勝負。これは見たい!
(Akira TAKATA)