Player Pick Up 東内那津未
大会2日目のベスト8戦。試合中に顔を上げた東内の視界に大型モニターが入ってきた。そこには4試合のリアルタイムスコアが出ている。全カードが日本vs海外だ。
表彰台を独占した日本の4名。左から、3位・林、2位・西本、優勝・東内、3位・福本
「日本のみんな、海外勢にリードしてたんですよね。頑張ってるな、よし私も、って」
皆というのは
西本優子、
林奈美子、
福本綾香。この3名はそのまま逃げ切ることになる。そして東内はそれまで、前回大会2位の実力を持つK・ジェッテン(オランダ)に先行される苦しい展開だったのだが、終盤は毎イニングのように当てて逆転勝利を収めた。
「ベスト8の前に『緒里恵さんがいなくても、日本のこの4人で表彰台を独占しよう』なんて話もしてたんです」
3連覇女王、
肥田緒里恵の予選ラウンド敗退という波乱が巻き起こった『
第4回レディーススリークッション世界選手権』。しかし、東内は大会を通して終始落ち着いて見えた。特にこのベスト8の終盤から最終日にかけて、崩れる予兆や慌てる様子が微塵もなくなったように思えた。
「そんなことはないです(苦笑)。『メンタル強いね』って言って下さる方もいるんですが、どの試合も心臓バクバクでしたよ。ただ、『こんな機会はめったにない。後悔はしたくない』という思いはありました」
そして生まれた、ファイナルでのアベレージ1.315(19キュー・25-15)。素晴らしいパフォーマンスに会場の全員が賞賛の拍手を贈った。前女王の肥田も「あれだけ当てたら誰も止められないですよ」と爽やかに称えた。素晴らしい舞台で3日間に渡って行われた『世界選手権』という名のビリヤードショウの、最高の幕引きだった。
ワンモアを当てた直後、みるみる涙が溢れてきた
「8キュー目で6点ランを出して緊張がほぐれた感じがありました。ファイナルは撞いていて楽しかったですね」
それから3時間後。表彰式とドーピング検査を終えた
東内那津未は、盛大な会食の席で普段飲まないお酒を飲んでいた。解放感に浸る新女王に「優勝決定の瞬間のあの涙はどんな感情?」と聞くと、額に手を当て、しばらく考え込んだ。
「『何か信じられないことが自分に起こっている!』という......それって感情?(笑)」
最終日の朝。5分練習をしている東内。右側にはトロフィーが
どこか真に迫る表現だ。近々再訪して、この3日間のこととその感情について、もっと語ってもらおう。
〈T.KOBAYASHI(B.D.)〉