Player Pick up 羅立文
表彰式の後、差し出された右手を握る。今年4回目の握手。昨年は優勝ゼロ・準優勝4回だったから、昨年の「負けたファイナル4回分」を取り返せたかもしれない。
グランプリ最終戦に勝利し、グランプリ年間MVPも獲得した羅立文
昨日の『グランプリイースト』最終戦では、
羅立文の技術の高さから練習の跡、そして苛立つ気持ちを抑える姿に至るまで、その全てを見ることができた。「精密機械」と評される羅も生身の人間。
土方隼斗との「グランプリ年間MVP」争いが、最後の最後、ファイナルでの直接対決に掛かってくるという極限状況は、この男のメンタルを揺さぶり続けていたに違いない。
「MVPが欲しかったから、すごく勝ちたかったし、緊張していた。抽選で隼斗プロが反対の山に入った時から、『直接当たるならファイナルしかない』と心の準備はしていました」
まさにその通りになり、会場の空気は過去一番張り詰めていた。
「ファイナルは二人とも気合が入っていて良いゲームだったと思う。明暗を分けたのはブレイクだけじゃないかな」
そうかもしれない。ファイナルでの土方のブレイクはノーイン2回、スクラッチ2回。これが痛かった。一方の羅のブレイクはこの日の16名の中で1、2を争う巧さだった。
羅のカットブレイクはかなり効いていた
「一週間前は何も入らなかった(笑)。でも、練習していたらある日突然カットブレイクのイメージが固まってきた」
今回採用されたブレイクショットルールは結構な難物で、それは羅にしてみれば、不安のタネがいつもの試合より多いことを意味する。
「去年までの自分なら、ブレイクでアンラッキーな配置になったらすぐイライラしていたはず(笑)。でも今は、シュートミスとかアンラッキーな球っていうのは『あって当たり前』だと考えられるようになった」
土方戦の前は
塙圭介とのセミ・ファイナルだった。これは9月の『
関東オープン』ファイナルの再戦。その時敗れた羅にとっては否が応でも肩に力が入る試合だ。その序盤、羅はシュートミスをした。直後に筆者と目が合った。その目は「しょうがない」と語っていた。そんなアイコンタクトも、素早く落ち着きを取り戻す姿も、初めてのことだ。
グランプリイースト年間ランキングTop 3 左からMPV・羅立文、2位・土方隼斗、3位・塙圭介
「変わったでしょう?(笑) 自分でもメンタルの向上を感じます」
変わった。この状態で『北陸オープン』と『全日本選手権』に向かって行けるなら......。またすぐに握手ができるかもしれない。
〈T.KOBAYASHI(B.D.)〉