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過去のニュース(2012年)

2012.10.30 プレイヤー

サムライの流派は"竹中流"

Player Pick up  竹中寛

大井直幸が3年連続で北陸を制覇するのか?」決勝日の特設会場でそう予想した人も少なくなかっただろう。しかし、この日の"サムライ"竹中寛は一味も二味も違った。そう、ちょうど昨年の『全日本選手権』で日本人最高位の3位入賞を果たした時のように。

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竹中寛のヘッドアップは魂の現れ


その大会の軌跡を追って、女子で準優勝を果たした光岡純子とともに『CUE'S』の2月号(Vol.150)でインタビュー記事が掲載された。当時その記事を担当した編集者は竹中の「いくら悔やんでも、負けは戻ってこないんでね」というセリフに関心を示し、記事に対しても筆者に賛辞を贈ってくれた。手前味噌になるが、今でもその2本のインタビューは良記事だと思っている。取材時に撮り下ろした写真とあわせて。

その号が発売されてから約十ヶ月。ついにサムライが大きなタイトルを獲得した。試合中に首を傾げたり、笑みを浮かべたり、独り言をつぶやいたりと、変わらず観る者を退屈させないビリヤードを披露して。この決勝戦の映像は"竹中流"を存分に堪能できる内容となっているので期待していただきたい。

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試合中にこうした笑顔がよく見受けられる


竹中はショット毎に体が大きく動く。いわゆるヘッドアップも激しい。ショット直後にシャッターを切るとフレームアウトすることも珍しくない。もちろん実際には撞いた直後に動き始めるものなので問題はないのだが、普通はこれを真似するとプレッシャー等で体が動くタイミングに変化が起こるとミスを誘発するリスクが高いとされているものだ。

しかし竹中はノッている時ほど上体はより大きく動く。つまり『良質のヘッドアップ』が彼に限っては存在していることになる。それが失敗につながらないのは何故か? ズバリ『腹の括り具合』に尽きるだろう。

気持ちが逃げた時に出る一般的な上体のブレとは異なり、覚悟を決めた者だけが成功させることができる技。思えば北陸オープンで最多の5勝を挙げている高橋邦彦も集中を極めた時には、似たパターンのアクションが伴っている。

「優勝できたのも嬉しいんですけど、大井(直幸)にやっと勝てた嬉しさと半々でしたね。ホンマはプロらしく派手に喜びを表したかったけど、ホッとした気持ちが出てしまいました(笑)」。

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優勝の喜びと同等の価値を持っていたという大井(写真右)戦の勝利


そう語るサムライにヘッドアップが普段以上に大きかった点を尋ねてみる。

「それは気持ちが入った時の僕の持ち味なんでね。でもショット後に動いているハズなんです。もっとプロらしくスマートにいかなアカン、とも思ってるんですけど(笑)」。

変わらぬアクション、そして放つ言葉には気骨と優しさが同居する。

「今シーズンもずっと自分の状態は変わっていなかったんです。予選は順調に勝てるけど、決勝に入ってポロッとどこかで負けてしまう。待ち方を考えんとアカンのでしょうね」。

いつものハスキーボイスを発しながら、鋭い視線は開催が迫る全日本選手権を見据えている。

惜しくも大会3連覇は叶わなかったが、今年2度目となる『夫婦で準優勝』という偉業を遂げた大井夫妻の活躍も今大会に大きな花を添えた。日本のプロ選手の個性が一段と輝きを放ち始めている。応援も遠慮せず楽しむ時代が訪れている。なお竹中流に興味を持たれた方には、ぜひ先に記したインタビューをご一読頂きたい。(Akira TAKATA)