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ワールドプールシーンとKAMUI BRANDの関わり

2025.03.23

株式会社エンヴィジョン代表・平岡正人氏インタビュー〜第1回〜

KAMUI BRANDは、2月に行われた『ラスベガスオープン』でメインスポンサーとなった(写真中央が平岡代表)

2023年にwnt.が本格始動して以降、WPAの動きも活発になり、2024年、そして今年と盛り上がりを見せているワールドプールシーン。その流れの中で、KAMUI TIPをメインアイテムに、トーナメントやトッププレイヤーをスポンサードし、様々な国のビリヤード関係者と関わりながら広くビジネスを展開しているのが株式会社エンヴィジョンの平岡正人代表だ。ここでは、ワールドプールシーンの現状を最もよく知るジャパンプール関係者の1人である平岡代表に、エンヴィジョンと世界の関わりから、活況を呈しているアジアの状況、さらにはWPAとwnt.の問題などについてじっくりとお話を伺った。

●クエスト・フォー・エクセレンスが響く人達全てのブランド

――本日はお忙しいところありがとうございます。平岡さんは株式会社エンヴィジョン代表としてKAMUIブランドを世界に展開し現在では大きなシェアも取っています。その中ではワールドプールシーンとの関わりが非常に深いと思うんですが、具体的には今どんな形でどんな方たちと関わってビジネスをされていますか?
平岡正人代表(以下、平岡):基本的に徹頭徹尾なんですが、ビリヤードが大好きで、ビリヤードの素晴らしさについて「これ面白いよね」という共感を得られるような人たちと一緒に仕事をしています。当初からこれを続けてきた結果として現在は、世界中の多くの会社と取引をするようになりました。

――トーナメントのスポンサーになることも多いですよね。
平岡:プレデターの大会もマッチルームスポーツも、国内の試合もスポンサードしています。これについてどんな人たちとやり取りしているかについては面白いこともありますよ。

――どんなことでしょうか?
平岡:Facebookを見てびっくりするようなことが結構あるんですが、以前に取引したりとか友達になったことがある方達が、KAMUIのことがすごく好きだから勝手にロゴを出して大会をやっていたりするんです。うちが主体的にやらなくても露出が増えるみたいな感じです。

――それは面白いですね。
平岡:そういう意味でKAMUIはすごく特殊なブランドかもしれないと思っています。例えば私は広島出身なんですが「広島カープファンか?」と言われるとそこまでファンじゃない。ところが東京に行った時に「平岡さんやっぱり広島カープファンなんですか?」と言われると「はいそうです」と言うんですよ。これはおそらく私のアイデンティティの中に広島カープが少し入っているからで、それと同じようにビリヤードプレイヤーのアイデンティティのちょっと一部にKAMUIが入ってるんじゃないのかなと感じています。

KAMUI ラスベガスオープンにはプレイヤーとしても出場

――確かに世界での浸透度は高いですね。
平岡:今は例えばキューテック派とプレデター派や「俺はwnt.、いやいや私はWPAなんだ」みたいな、何か少し分断を助長するようなイデオロギーやナショナリズムみたいものが広がっていて、他の人たちとみんなで一緒にという方向から自分第一の世界に変わってきましたよね?

――はい、その傾向は感じます。
平岡:中国に「地球村」という言葉があるんですが、地球は1つの星で、今はそこの中に線を引いたり色んな区別がありますが、私はこういうことがすごく嫌いで、KAMUIは何にも囚われることなく、ビリヤードが好きな人たちや、KAMUIのミッションである「クエストフォーエクセレンス(卓越を追求する)」が響く人達全てのブランドだと思っています。だからこそたくさんの人たちが協力してくれたり、当社のことを好きになってもらえ、そこにタップやチョークなどの事業活動が紐づいてるというのが現在です。

●まずビリヤードプレイヤーとして嬉しいですね

――ではその中で、世界各国の多くの関係者やトーナメントを見ている平岡さんは、ワールドプールシーンの現状をどう捉えていますか。
平岡:まず前提として、私は世界のスポーツシーンの中でビリヤードというのはマイナーで、今世界でビリヤードに関わっている関係者のほとんど全てが本当にビリヤードが好きなファンだと思っています。これは、ビリヤードが離反率の高いスポーツであることが要因の一つとなっていると考えています。

――離反率が高いというのは?
平岡:ビジネスにとってこの離反率のコントロールはとても大事で、顧客が離反しないビジネスは伸びるんですが、私がこれまで見てきた様々な調査レポートでは、ビリヤードはプレイヤーとしてA級くらいになると離反率が非常に低くなり、それ以上のレベルになれば絶対に辞めないライフスポーツになるんですが、本来はメインとなるはずのそれ以下の層の離反率が高い。だから今この業界に残っている私も含めたほとんどの人がビリヤードが大好きな人たちとなる。さらにそういった人の家族や友達がビリヤードやらないというパターンも多いですよね。

――確かにそうですね。
平岡:このような環境の中で例えば「僕たちビリヤードやってるんだよ」と言うと「へえ、ビリヤードって面白いんだ」、「そんなにハマるの?」とか言われるんですよ。けれどビリヤードが好きな人間は「ベースボールやサッカーどころじゃない。ビリヤードってめちゃ面白い」と思っていて、ビリヤードはあまりにも過小評価されていると寂しさを感じていたと思うんですよ。そんな状況が続いてきた中で、wnt.や我々も含めたスポンサーが色々入っていって「ビリヤード業界を盛り上げていこうぜ」というのがムーブメントになってきて、リベンジじゃないですけど、ビリヤードの素晴らしさをもっとわかってもらいたいと思っている人達が一気に行動し始めているというのが今の状況だと思います。

先日終了したwnt.メジャーのヨーロピアンオープンはボスニア・ヘルツェゴヴィナで初めて開催された

――今まで過小評価されていたビリヤードが評価され、プレイヤーも増え、マーケットが大きくなってくると、今やらなきゃと感じますよね。
平岡:はい。そんな手応えが今ビリヤード業界に広がってるんだろうと思います。一度市場が低迷してからもう20年近く経ちますけれども、台湾にも「いや、フィリピンかもしれないけど実は台湾、俺たちが世界一なんだ」と思っているコアな人たちが残っていて、この波に乗って盛り上げていこうという機運がありますね。そしてフィリピンはもともと大きなマーケットでしたが、これを土台にして活発に動いています。

台湾では今年、男女プロツアーが久々に復活

――両国ではトーナメントやイベントも増えましたね。
平岡:もう1つ、これはプレデターやマッチルームの非常に大きな功績だと思うんですが、新しくビリヤードをやる人達が結構増えて特に新たな層が生まれているのがアジアですね。

――ベトナムなどは凄い状況になっていますよね。
平岡:ベトナムには今、ハノイに4000、ホーチミンに4000、それ以外のダナンなどに2000ヵ所、全国で1万件のビリヤード場があります。ベトナムは国民の平均年齢も30代前半で、絶対数の多い若者たちがビリヤードをやるようになっていますし、昨年のハノイオープンでは会場の外で選手の出待ちをする熱狂的なファンも多かったです。私はハスラー2ブームを体感していなくて話を聞いただけですが、この時は日本が一時期、ある1年間だけ世界一の市場になったことがあったということです。しかし恐らく今のベトナムはそれを超えているんじゃないでしょうか。

ベトナムの熱狂は今最高潮に達している

――ビリヤード場の規模も桁違いですし、とにかく熱気を感じます。
平岡:今は設置テーブルが100台を超えている店が何か所かありますし、しかもそれを1テーブルを最低2人、ほとんどのところが3人撞き、4人撞きで満台という状況です。

――このような現状を見て、平岡さんはやはりいい傾向だなと思っていますか?
平岡:まずビリヤードプレイヤーとして嬉しいですね。純粋に自分と同じような気持ちを持っていて、それをお互いに分かち合える大勢の人達がビリヤードをプレーする、これはドキドキします。ブランドホルダー、会社としては、このモメンタムとトレンドをどう持続させていくかとか、バリューチェーンのことを考えます。「お客様は本当に喜んでいるんだろうか。ビリヤードをプレーし、ビリヤードアイテムを買う人達によってもたらされた富の分配は適正に行われているんだろうか」とか思いますよね。

――もう少し具体的に言うと?
平岡:例えばビリヤード場は、お客様からお金をいただきますが、ブームになった時には利益が大幅に増えます。それを例えば第2支店、第3支店を出すとか、初心者の人たちを教えるレッスンをするなどに振り向けるのかどうか。恐らくですが、ハスラー2ブームの時に我々が失敗してしまったのは、儲かったお金がこのようなB級やC級の人を育てる方向に向かわなかったからだと思います。今年儲かればいいということではなく、5年、10年でビリヤード業界をもっと盛り上げるためにどうするかを考える人たちもいたのでしょうが、魚の群れが来て、皆で大喜びしてその魚を取り尽くしてしまう状況になってしまった。
――確かに今のジャパンプールに繋がるものは少ないように思います。
平岡:日本は一度そういったことを体験していますが、ベトナムなどはこれからの活動をどうするんだろうかというのは心配になったりしますね。

次回は、現在も決着を見ていないWPAとwnt.の問題について、双方とつながりの深い平岡代表にそれぞれの立場、動きなどについて伺います。

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