レッスンの現場から〜松野剛明プロ編1〜
失敗の数が多いからこそ受講者の求めるものがわかる
松野剛明プロは、「レッスンを受けるならプロがベスト!」でも紹介しているように、現在は、昨年10月、千葉県習志野市にオープンした『ビリヤードレッスンスタジオトリガー』で、初心者からタイトルを狙えるほどのハイアマチュアまで、たくさんの悩めるプレイヤーにレッスンを行っている。
プレー全体を俯瞰で見ることができるモニター設備、さらにはレッスンのために導入したスポーツ解析アプリ『DARTFISH』(ダートフィッシュ)を駆使し、そこに松野プロがこれまでの長いプレーとレッスン経験で培ってきたメソッドを組み合わせた、「見てわかる、聞いてわかる」レッスン。現在は、目からウロコを落とした受講者の口コミやSNSでの発信も手伝って、このレッスンのために地方から悩めるプレイヤー達が訪れるまでになっている。
ここではそんな松野プロのレッスンについて、実際にどのように行われているのか、また指導のポイントや、教えることに対する基本的な考え方など、現場に伺って様々に聞いてみた。
●受講者の環境を知った上で教える
――昨年のオープン以来、今までこのスタジオではどのくらいのプレイヤーをレッスンされてきたんでしょうか。
M 数はまだそれほどでもないですが、スタジオでのフォーム解析のデータは100名分くらいです。オープン準備やお店(ビリヤードトリガー大久保店)のこと、少し体調を崩していたこともあってほとんど撞けていなかったんですが、ここ最近プレイヤーとしての練習も徐々に復活させているので自分のデータもありますが(笑)。
――そうなんですね。小学生の頃から指導している小西さみあプロも何度かスタジオに足を運んでいると聞きました。
M はい、今年はとても良い感じで僕も嬉しいですし、そんな中でも、たまにチェックに来てくれています。
昨日は教え子の小西プロがフォーム調整と練習に来てくれました。
最近成績も上向きでしっかりしたゲームをしてますね。
嬉しい限りです。
自分も対戦して現在の回復状況を確認できました。
週末はグランプリ。
お互いに頑張ろう🤗 pic.twitter.com/4b2ZPUG5zi— 松野剛明 (@jpba_matsuno) June 20, 2024
――さて、松野プロはこれまでプロプレイヤーとして、ビリヤード場のスタッフやオーナーの立場からたくさんのプレイヤーを指導してきている訳ですが、レッスンのプロフェッショナルとして大事にしていることは?
M 僕はプロプレイヤーとして決してトップレベルではありません。ビリヤードには感性と論理的な思考の両方が必要ですが、僕は物事を論理的に捉えて解決策を見出していくタイプで、感性の鋭いタイプが多いプロの中ではかなり不器用な方だと思っています。だからこそ、これまでのプレイヤー人生でたくさん練習して試行錯誤を繰り返し続けてきましたが、その経験はレッスンに活きていると思います。
――具体的にどのような形で活かされているんでしょうか。
M 受講者にはいろんなレベルがあって、それぞれに悩みがあります。僕も同じようにこれまで数多く失敗して、それを克服してきましたので、受講者が求めるものに対して、それができない原因がわかりますし、それを解消していく方法も、感性ではなく具体的に伝えるようにしています。
――その時には言葉も大切にしているんでしょうか。
M 基本的にものを教えるというのは「上手な嘘をつく」ことと考えています。これがどういうことかと言うと、自分が「一番これが正しい」ということを話しても、伝わらなければ意味がないということです。よく上手い人が、「これはシュッと撞けばいいんだよ」「バシッと撞くんだよ」とか、「軽いタッチでグっと出せばいい」などと言ったりしますが、これはできるようになった人が初めて共通言語として持てる感覚で、できない人にとっては何を言ってるのかわからない言葉です。だから僕は、できない人がわからない共通言語を極力使わないようにします。ここを押し付けてしまうと、結局受講者が「できない」ということに対して悪いイメージを持ってしまいます。「こんなこともわからないんだ」というマイナスイメージを植え付けるためにレッスンを受けてもらっている訳ではないので、基本的にはここを気をつけます。だから人によって同じことを伝えるために全然違う表現を使うこともあります。
――受講者に対するアプローチに気をつけているんですね。
M どの受講者に対しても一緒なんですが、僕のレッスンは「ビリヤードを楽しく継続的にずっとやってほしい、そして、どうせやるなら上手い方が楽しいですよ。そのためのお手伝いをします」が基本のスタイルです。だからこそ、本人の今の要求度やビリヤード環境を無視したようなレッスンはしないように気をつけています。技術的に単純な方法論や正解例というのは、表現方法は違っても、プロなら当たり前のように言えると思いますが、僕はまず受講者の環境を知った上で教えることを変えていきます。
――具体的にはどのように変わるんでしょうか。
M 当然それには撞く時間がどのくらいあるのかが関係してきます。毎日撞いているのか、週に1回なのかで僕が要求することが変わる訳です。例えばフォームの変更がどうしても必要だというケースはあまりないですし、本人が希望したとしても、週に1回3時間くらいのプレー頻度だと、おそらく無理なんです。週4日か5日以上撞く人が毎日3時間ぐらいかけて少しずつ変えてくことは可能でも、週1回だけでは、変えようとすると、結局入らなくなっておしまいになってしまうことが多いんです。
――なるほど。
M 当然レッスンを受けるユーザーにはいろいろなレベルがあります。例えば小学生の頃から教えてきた小西さみあプロは、先日も優勝したようにかなりレベルが高くなっていますが、今でも僕の中にある経験と知識で教えることができます。逆に始めたばかりの人もいるしCクラス、BクラスからAクラスでもかなりのレベルの方もいます。なので、一人ひとりに合わせて方向性を提示していくことが必要で、例えばその人が無理だということをさせるのが一番良くないんです。
次回は、松野プロが実際に解析アプリを使ってどのようなレッスンを行っているのかについて、紹介していきます。