Chapter24 それぞれの戦い
作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一
第24話
北海道オープンから3ヵ月が経過し、辺りは一面銀世界となっていた。深く積もった雪の中で、ケヴィンは上半身裸で斧を握っていた。足元には割られた薪がたくさん転がっていた。大会で雷に敗れて以来、ケヴィンは一段と体を鍛え、さらにたくましくなっていた。道場の中から雫が現れた。
「またそんな恰好で、よく寒くないよね!」
「精霊のおかげで、心身ともに今までよりもコントロールできるようになったからな。この程度の寒さは体からエネルギーを発すれば何の問題もない」
2人にはお互いの精霊が見えていおり、ケヴィンのそばでは背の高い白熊が口を大きく開いていた。
「体を温めるなんて私の精霊とは見事に正反対だね。彼女は時間まで凍らせるから」
雫の傍らでは氷のエルフが優雅に漂っていた。
「それより、師匠が呼んでるから道場に戻ろう」
「北海道オープンでは鷹上雷との試合でお互いに悔しい思いをしたことだろう。これまでトップを争っていた君達さえも凌駕するような相手が現れようとはな。その感情をきっかけに君達はそれぞれ、自分の精霊に出会うことが叶った。私達はもうエレメントを熟知した気でいたが、学ぶべきことはいつまでも絶えないものだな。
ジャパンオープンまで残すところ数ヵ月となったが、再び鷹上雷とぶつかることになるだろう。印象に残っているだろうが、弟の翔くんや灼谷龍くんもうんと上達しているはずだ。厳しい戦いになるだろうが君達は再びトップに返り咲かねばならない」
雫とケヴィンは真剣なまなざしで返事をした。
時は経ち、ジャパンオープンまで1ヵ月を切っていた。翔に続き、精霊と出会うための修行を続けていた龍が、久しぶりに道場へと戻ってきた。
「よう、翔! 戻ったぜ。」
成果を得られるまで龍は戻らないと決めていたため、翔にとっては突然の帰還だった。
「おおっ! 待ってたぜ、龍! ……って、うわぁ、お前の精霊すげぇかっこいいな!」
龍の背後にはドラゴンが渦巻いていた。
「ジャパンオープンに間に合ってよかったな! 今ならとんでもないブレイクができるんじゃないか?」
「まあな。でも、精霊の力が強すぎて体力の消耗が激しい。今はまだ1時間に1回ほどしか使えない。もっと特訓して、1ヵ月でできることをやってみるぜ。ところで、テーブルに付いたその跡は一体何なんだ?」
翔の練習していたテーブルには1本だけ球の軌道の跡がくっきりと付いており、ひたすら同じ練習を繰り返していたことを物語っていた。
「1回やってみせるよ。きっとびっくりするぞ!」
翔はわずかにフリが付くように、手球と的球をセッティングした。ポケットに対し、ラシャの跡は手球と同じ側に伸びているが、普通のショットでは手球は逆の方向に向かってしまう。どうにかして手球を同じ方向に動かしたいようだ。翔は普段のようにキューを低く構えはせず、代わりに持つ手を高く上げて、キューを振り下ろすような姿勢になった。そして何度か素振りをすると、手球の右側を強く撞いた。的球のシュートを決めると、手球は自然の法則に従い、手球とは逆の方向に流れた。だが次の瞬間、強烈な横回転の力によって手球は減速し、そのまま反対方向へと転がり出した。
「うわっ、そんな出し方があるのか! すげぇ!」
珍しそうに龍は目を見開いた。ほとんど見たことのない動きだったようだ。
「うん、手球の回転でラシャが擦れてしまうくらい練習したんだ。ネモスの力のおかげで色んなことができるようになったよ。でも力加減が難しくて、手球がどの辺りで止まるのかがわからない。まだ試合では使い物にならないから、俺も残り1ヵ月頑張らなくちゃ!」
「そうだな、お互いラストスパート駆け抜けようぜ!」
「おう!」