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Chapter19 vs 明

2021.07.29
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第19話

翔と龍は完全にゾーンに入っていた。一方がショットをすると、的球がポケットされるのも待たずにもう一方は歩き始め、手球が止まった時にはすでに構えの準備ができている。ビリヤードという名の二重奏を弾いているようだった。

明はこの光景を驚きの目で見ていた。幼馴染の2人はずっと一緒にビリヤードを練習してきたために、直感的にお互いの次のショットが見えているように思われた。それはまさに一心同体という言葉がぴったり当てはまるような強い絆だった。

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ふと時計を確認すると、2人が10分もかからないうちに0-6から6-6まで巻き返していることに明は気が付いた。「無我の境地」に至らなければこのような離れ業は到底成しえない。2人は精神的な限界を打ち払うことで、山での修行でひたすら行っていた瞑想中のイメージトレーニングをそのまま現実に写せていた。

しかし、それは同時に、修行中のイメージトレーニングと同様の不安、恐怖の壁が2人それぞれを待ち構えていることを意味した。自分の能力を超えるほどのプレーに目を奪われていても、彼らが抱えている目の前の問題を見落とす明ではなかった。

瞑想ならば敵が現れようとも目を覚ますことでその場を逃れることはできるが、本物のビリヤードテーブルを前にそのような手は通用しない。現実のものとして自分の中の敵と向かい合わねばならなくなった今、2人にとっての本当の試練が始まったのであった。

大きくリードを取られていたために、それまで形勢を気にせず無心に撞き続けていた龍は、イーブンへと試合を戻したことで勝利への意識が胸中に芽を出し始めた。過去最高のレベルのプレーをしていることへの興奮を噛みしめだすと、意識の奥底の静寂に包まれた場所で小さな火が灯った。ブレイクの構えを取ると、これまでで一番ストロークの速い素振りを何度も繰り返した。頭の中ではフルパワーのショットのイメージが完成していた。

「ようやく、ようやく自分の強さを見せることができた。自分は火のエレメントを使うにふさわしい器を持っている。今なら誰にも負けない自信がある。この試合に勝利すれば、それは自分の力によるものだ」

無我の境地という初めての精神状態にある龍にとって、感情が暴走し始めるのに長くはかからなかった。左手で組んだブリッジからキュー先が抜けるほど腕を振り上げると、グリップを一度強く握りこんだ。
「俺は強い、そしてもっと強くなる!もっと、もっと、もっと……!」

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電光の速さでキューが振り下ろされると、すさまじい音とともに球は四方へと散った。その瞬間、炎は龍の心から溢れ出した。龍の目は闇に染まり、黒いオーラを纏い始めた。それは雷が北海道オープンで見せていたものと同じ色をしていた。

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翔はこの時まで龍と二人三脚で順調に戦えていると信じていたが、龍の姿を見てそうではないことを知った。そして、帰ってこなくなった兄と同じ目に幼馴染が合っているということが彼を動揺させた。

「お前のような弱い奴が鷹上を名乗る資格はない」

かつて雷に投げかけられた言葉が翔の心を抉った。兄の言う通りかもしれない。自分は弱く、一番近くにいる友さえも失ってしまうのだろうか。今の翔にとっても、この壁は到底崩せるものではなかった。

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