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Chapter17 二人の成長

2021.05.30
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第17話

北海道オープンから半年が経過した。
日の出とともに目を覚ましたすみれは、まだ眠い目をこすりながらもおにぎりを握ろうと張り切っていた。

「最近は山での修業が忙しいと言って、翔にも龍にも全然会えてなかったからなあ。この時間ならまだいるかな?」
しかし、道場をちらっと覗いてみると、そこにはすでに誰もいなかった。
「そっか、もう修行に出てるんだ。2人とも雷のためって頑張ってるもんなあ。応援してるよ! きっと雷を助けられるって信じてる!」
夜が明けてすぐの涼しさで朝もやのかかっている山の頂を見上げながら、とっくに見えないところまで行ってしまった2人にすみれは思いをはせた。

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最初の頃こそ息を切らしながらどうにか山道を登っていた2人も、ずいぶんと修行の場までの道のりに慣れてきたようだった。道中出会うものを楽しみながら、日が高くなる前に修業を始められるようになっていた。
翔は鷹が舞っているのを見かけると、その後を追うように風となって駆けていった。
龍は大きな岩を見つけると、あえて正面からそれにぶつかり、よじ登って超えていった。

毎日欠かさず厳しい修行を続けてきただけあって、2人の体付きもずいぶんと変わっていた。半年前はまだ子どものように腕や脚が細かったが、今では大人と呼んでも差しつかえないくらいのたくましい体躯をしていた。軽い足取りで2人が山頂にたどり着くと、そこにはいつものように明が待っていた。

修行開始の挨拶をすると、2人はいつも通り岩の上で隣り合って瞑想を始めた。
「修行を楽しむ余裕も十分出てきたようだな。彼らは順調に修行が進んでいると思っているだろうが、この先の段階にもついてこられるだろうか」
翔と龍の成長ぶりに大きな期待を抱いている明だったが、やはり不安はいつまでも残っていた。

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いつの間にか、瞑想中に2人はゾーンに入ることもできるようになっていた。意識の中でビリヤードをしている場面を正確にイメージすることで、精神状態をコントロールする術が身に付き始めていた。また、イメージが安定することで、修行によりキューを握る時間が短くなったにもかかわらず、彼らは練習と同じ効果が得られるようになっていた。

ただし、修行の全てが思い通りに進んでいた訳ではなかった。ゾーンはいつまでも維持できるわけではなく、一度ゾーンに入っても2人はそれぞれあるきっかけがあって体力と精神の限界を迎えてしまう。

翔は集中力が上がってくると、かつて雷に言われた
「お前のような弱いやつが鷹上を名乗る資格はない」
という言葉が甦る。声が頭の中で響き始めると翔はそれを追い払おうとするが、かえって声は大きさを増していき、気が付くと意識が山頂の岩の上に引き戻されてしまう。

龍は瞑想の奥に足を踏み入れると、目の前から闇を纏った人影が近付いてくる。隠れた顔をよく見つめると、それは同じ火のエレメントを持つ雷のように、強さを求めるあまり力に飲まれてしまった自分の姿である。もう1人の自分の大きさに怯んでしまうと、急降下するようにゾーンから抜けてしまう。

雷を救いたいという志の強さゆえに、逆に精神に弱点が生まれてしまっていた。
この日もまるで悪夢を見ているかのように、ふたりは目を閉じたまま徐々に険しい表情となり、ある瞬間にはっと目を開いてしまった。

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翔と龍が同じ壁に当たっていることに明はすぐに気が付いていた。しばらくは彼らに任せてみようと様子を見ていたが、苦戦する彼らの姿を見かね、ついに手を差し伸べることにした。
「いつもそこでつまずいてしまうようだな」
心を見透かされたようで、翔と龍はうなだれた。
「明日の修行はここではなく、久々に道場で試合をしよう」
予想していなかった言葉に2人は顔を見合わせた。明は珍しくにやりと笑い、言い放った。
「なに、お前たち同士の試合ではない。相手はこの私だ」

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