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Chapter9 Back to Home

2020.10.03
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第9話

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試合を終え、東京を満喫した3人は地元へと戻ってきた。そこはいつも通りの見慣れた景色だっ
たが、翔とすみれにはいくぶんか田舎に見えた。家と道場が並んだ翔の実家にたどり着くと、父
親の明が待っていた。

「おかえり。試合ご苦労さん。久しぶりだな、龍。よくぞ帰ってきた。またいつでも練習しに来
なさい」
「ただいま明さん!ここからはまた毎日修行に来るよ」

自分が育った土地に戻ってきた嬉しさと懐かしさに包まれながら、龍はみんなと一緒に家に
入っていった。師匠はほんの少しだけ歳を重ねたようだったが、幼馴染が集った道場には2年前
と同じ日常が広がっていた。

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それから2週間、翔と龍は毎日ビリヤードの稽古に打ち込んでいた。明は龍の球を見ながら、龍
が修行に出ていた期間の成長を噛みしめるようにうなずいていた。すみれも道場に顔を出して
は、楽しそうに練習を見守っていた。たまにはキューを取り、2人に相手をしてもらっていた。
翔と龍が練習に身を入れるのはいつものことだったが、彼らを駆り立てる理由が今は別にあっ
た。

それは翔の兄、雷が1年振りに戻ってくることだった。彼の歳は翔よりも6つ上で、ビリヤードを
始めた時期も早く、翔の憧れでもあった。雷はエレメントのさらなる高みへと到達す
るため、修行に出たのだった。その彼がついに修行を終え、道場へと帰ってくるということで、
どのくらい強くなったのか、どんな技を習得したのか、翔と龍は心待ちにしていた。

実は翔と雷の父親である明も若かりし頃に同じ目的で修行に出たことがあったが、プロの中で頭一つ抜けて
いた明でさえもエレメントの高みには達することができず、修行を断念しているという過去があった。
自分が叶えることのできなかった夢を息子に託す気持ちで、明は雷に期待を寄せていた。翔、
龍、すみれの3人も、一度決めたことには一心に取り組む雷の性格を知っていたため、彼なら
きっとエレメントの高みを目指せると信じていた。

その頃、雫とケヴィンは地元で開かれる北海道オープンに向け、練習を重ねていた。水のエレメ
ントの雫と地のエレメントのケヴィン。翔と龍と同じように、2人もまた幼い頃から腕を磨き
合った仲だった。

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エレメントを強化すべく、雫は球のコントロールの微調整を行っていた。両端の短クッションのそ
れぞれの中間地点を結ぶ線上に球を並べ、ポケットを2つに絞って両端から順番に入れるという練
習を今はしていた。力加減、球の回転など全てにおいて正確さが求められる課題だったが、彼女
は他人に真似できないほどの集中力で何度も成功させてみせた。

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また、ケヴィンはより厳しいセーフティの練習をしていた。彼は感覚を確認するためにしばらく
は普通に的球をポケットさせていたが、おもむろにトランプのカードを取り出して、テーブルの両
端に1枚ずつそれを敷いた。雫はこの練習を見慣れていたが、初めての人なら疑問を抱いただろ
う。

あらぬ方向に行ったと思われた的球はクッションに当たった後、敷かれたカードの上でぴっ
たり止まり、少し遅れて手球も反対側のカードの上で止まった。その後、様々な配置からケヴィ
ンはこの練習を続けたが、手品のように球はカードの上で止まり続けた。彼の大きな肉体からは
想像もつかないほどの繊細な技術がそこには詰まっていた。

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そして、ビリヤードの練習を終えると、2人は決まって瞑想を行った。エレメントを操るためにい
かにメンタルが重要かを熟知している彼らは、精神の鍛練も決して怠ることはなかった。

その日の練習を終え、明、翔、龍、すみれは鷹上家で食卓を囲んでいた。龍とすみれにはそれぞ
れ家があるのでいつも食事を共にしている訳ではなかったが、この日は皆で準備をし、野菜と
肉たっぷりの鍋をつついていた。

鍋の具材がなくなる頃、何の前触れもなく家の戸を風が叩き始めた。1日快晴が続いており、天
気が崩れる予報もなかったので、翔たちは違和感を覚えた。なんだと思って一同が上を見つめて
いると、風が隙間を抜ける音とともに、突然部屋のろうそくの火が消えた。不気味な現象にすみ
れは少し恐怖を感じ、座ったまま翔に身を寄せた。と、その時、外が一瞬光ったかと思うと、
雷鳴がとどろいた。その瞬間、明は何かに気付いたように動きを止めた。彼は視線を机に落と
し、表情を変えることなく一点を見つめていた。3人はすぐに明のいつもと違う様子に気が付い
たが、声をかける前に明は外へと向かった。3人も明の後を追って玄関を出た。

直前までの澄んだ天気が嘘かのように、一面厚い雲で覆われた灰色の空が広がっていた。稲妻が
地面まで届き、轟音を鳴らしていた。家から続く道の先を見やると、こちらへ向かってくる影が
あった。影は一歩近付くごとに大きくなり、すぐにそれは人だとわかった。その間も雲間は妖し
く光り続け、地面を揺らすような音が鳴り続けた。やがて人影は家の前まで来ると、歩みを止め
た。

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