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Chapter7 Hill to hill

2020.08.01
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一

第7話

他のベスト8の試合は全て終わり、龍と翔のテーブルだけが残っていた。試合は5ゲーム先取の4-4とまさにクライマックスを迎えていた。会場内の全ての観客が龍と翔の試合に注目し、勝った方が優勝候補だろうと考えていた。そんな状況の中、翔は最後のブレイクの準備を始めた。龍は翔の調子を観察している。幼なじみの彼は翔に波があり、それが弱点だと知っていたため、自分にチャンスが回ってくる可能性はまだあると考えていた。

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翔はいつも通りにブレイクをしたつもりだった。しかし、1セット前の龍のブレイク同様に、四方に散った的球の1つが手球に襲いかかった。一直線にコーナーポケットに向かっていく手球だったが、ギャラリーが声を上げそうになったその時、別の的球が手球に衝突してスクラッチを免れた。

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結果的に手球を救うことになった的球もポケットし、翔のブレイクは4個ポケットした。思わず彼は胸をなでおろした。ブレイク後のレイアウトは、トラブルもなくマスワリが可能な配置だったため、この試合は翔が勝つだろうという予想を伴って会場内はざわついた。
その声に反応してか、大勢の観客の目が自分に向けられていることを翔は急に意識し始めた。と同時に、風のエレメントを自在に操れるゾーンの状態から抜け出してしまった。普段の翔は注目や期待をむしろ喜ぶ性格だったが、この張り詰めた局面に彼は動揺していた。もはや試合を楽しむ心の余裕はなく、ミスをしてはいけないという気持ちに支配されていた。心理状態が良くないことは本人が一番よくわかっていたが、どうしようもなかった。

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初めに①をフォローショットで撞いた瞬間、翔は嫌な予感がした。やや厚めに当たった①は問題なくポケットしたものの、⑤に対し手球が真っ直ぐに出てしまった。

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ここでは主に3つの選択肢が考えられるだろう。
1つ目はストップショットの⑤からバンクショットで⑦をサイドポケットに決め、⑧にポジションするもの。バンクショットの精度が試合の命運を握ることになる。
(⑤のシュート率99%、ポジション成功した場合⑦のシュート成功率80%・⑧へのポジション成功率80%)

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2つ目は手球を引いて⑦に薄めにポジションし、バタバタと呼ばれるショットで⑧にポジションするもの。3つの選択肢の中では正攻法であり、⑦を決めることができれば高い確率で⑧に上手く出る。
(⑤のシュート率98%、ポジション成功した場合⑦のシュート成功率85%・⑧へのポジション成功率90%)

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3つ目はキューを立てて左下を撞き、強い回転により⑤に当たった直後進行方向を変え、直接ドローで⑦にポジションするもの。かなりアクロバティックでリスクの高いショットだが、⑤が決まれば見返りは大きい。風のエレメントを操る翔なら一考に値する。
(⑤のシュート率50%【エレメント使用時??%】、ポジション成功した場合⑦のシュート率99%・⑧へのポジション成功率99%)

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アマチュアの試合ということで持ち時間は特になかったため、翔は1分近く次の手を考えていた。構える素振りを見せてはキューを下ろすことを繰り返していた。その様子を龍、すみれ、ケヴィン、雫はもちろんのこと、観客全員が見守っていた。
龍とすみれは翔の様子がおかしいことにすぐ気が付いた。彼はやりたいショットが決まっていたのに、エレメントが使えないため決心できずにいた。そのショットを諦めるか、それとも一か八か試してみるかで逡巡していた。

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ようやく意を決し、翔はショットを選択した。キューは立てていない。手球の下に撞点を合わせている。2つ目の選択肢を選んだように見えた翔は、皆の想像より強くショットした。4つ目の選択肢、右下の回転をかけるロングドローショットに決めたのであった。

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翔は薄いショットに自信が持てず、⑦に対して角度が残るいずれの選択肢も嫌った。その結果、一度短クッションまで手球を引き、⑦の真後ろに出すという方法に至った。手球は想定通りの動きを見せ、彼はほっとした。
ところが、いざ⑦に対して構えようとすると、それが想像以上に気を遣うショットであることに翔は気付いた。頭の中では⑤と同じように手球を引いて、⑧にポジションする想定だったが、この距離を引くために必要なスピードを考えると不安が残った。翔は今更、自分のショットが本来選ぶべきものではなかったことを思い知らされた。そして、再び困り果ててしまった。

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