Chapter 37 Sho vs Kevin
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作/Donato La Bella 文/渡部嵩大 監修/関浩一
第37話
鷹上翔とケヴィン・ウッドランドの試合が始まった。テーブルに到着すると、2人はお互いの表情を確認した。共に相手の実力はよく理解しており、そこにあえて言葉を挟む必要はなかった。ケヴィンは翔より30cmほど背が高い上に隆々とした筋肉に包まれ、傍から見るとまるで親子のようであった。
一度敗戦した経験のあるケヴィンはリベンジに闘志を燃やしていた。一方、翔にとってこのゲームに負けることは、おそらく二度と雷と相対する機会がないことを意味し、人生をかけた勝負でもあった。両者の健闘を願い握手を交わすと、翔は相手の大きさに驚いた。ケヴィンはまるで山のようだった。ビリヤードがなければ何をしても敵わないだろう、と彼は思った。
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ケヴィンの撞いた球は勢いなく転がり、バンキングが上手くない翔にしては珍しくブレイク権を手にすることができた。当のケヴィンは何も気にしていないどころか、むしろ嬉しそうでもあった。翔がブレイクの準備をしていると、ケヴィンは突然精霊を呼び出した。
「ドール、顕現せよ!」
すると、ケヴィンの目の前に白い大きな熊が現れた。翔はその姿に一瞬ぎょっとしたが、ドールはしゃがみこんだまま、観客のように大人しく待っていた。
「食われちまうのかと思ったよ。よし、始めようか!」
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このジャパンオープンを通して翔のキュースピードには磨きがかかり、火のエレメントの使い手にも劣らないほどのブレイクを手に入れていた。オープニングブレイクで早速その成果を見せつけると、翔はすぐに最初のゲームを取った。
その間ケヴィンとドールは何ら動きを見せず、手を出す意図はないように見えた。ドールは少し気だるいくらいの様子でぼんやりと伏せていた。
続いてのケヴィンのブレイクも素晴らしいものだった。順当にマスワリができるような簡単な配置となった。しかし、⑥で彼は予想に反してセーフティを決めた。ケヴィンの実力をもってすればノーリスクでポケットすることができるのに、なぜ守りに入ったのか翔は疑問に思った。しかし、いずれにしてもケヴィンのセーフティは完璧で、有利な状況をしっかりと固めていた。
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翔は2クッションで⑥を狙いに行ったが、ファウルを回避するのがせいぜいだった。ケヴィンは残りをきっちりと片付けて1-1とした。ドールはずっと同じ位置にとどまり、したことと言えばケヴィンがゲームを取ったところで小さな唸り声を上げただけだった。ドールは座って休んでいるだけのように翔の目には映った。ケヴィン自身もこれまでの大会で見てきた様子と変わりはなく、あえて見えるようにドールを呼び出した意図が読めなかった。
翔は再び完璧なブレイクを放った。⑦で手球のコントロールがやや乱れた時、ドールは初めて少しだけ頭を持ち上げた。
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しかし翔が落ち着いて難所を処理し、ゲームを2-1とすると、ドールはまたつまらなさそうに首を垂れた。ちょうどそのころ、雫は明のもとに姿を現した。小さく会釈をすると、彼女はすぐにまた試合に目を向けた。ケヴィンのブレイクもやはり一度目と同じく、マスワリができそうな配置となった。しかし、⑥でケヴィンはまたしてもセーフティを選択した。翔にはその意図がよくわからなかった。確かにセーフティの精度は文句のつけどころがなかったが、相手に展開をゆだねている点において、マスワリに優先するはずはなかった。
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前回は2クッションで失敗したので、翔はジャンプショットを試してみた。ジャンプキューを握り、彼はネモスの力を使って手球を飛ばしたが、手球はほんのわずかにポケットから外れた。今度はドールが小さな唸り声で反応を見せた。ケヴィンはそのままゲームを2-2とした。
翔が3回目のブレイクをするために立ち上がった時、ついにドールは体を起こし、ケヴィンのもとに向かった。
おっ、と翔は様子を眺めた。ドールがケヴィンをじっと見つめると、ケヴィンは優しく彼を撫でながら言った。
「ご苦労だ、ドール。鷹上翔に勝つ方法を、お前は授けてくれた」
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